為末:外遊びが子どもの成長に及ぼす影響は大きいですよね。ほかにもさまざまな問題が起こっています。身体やメンタルへの影響はもちろんですが、一番目立っているのは運動能力の低下です。
窪田:コロナ禍で外出が自粛された時期にも、子どもの運動能力が著しく低下したといわれていますよね。
為末:はい。それから長期的に見て深刻なのが、外遊びの減少でスポーツを始める人が減ってしまう可能性があることです。子ども時代に体を動かすのが好きなことと、大人になってから運動をするかどうかには、非常に相関があるといわれています。ですから、1日の外遊び時間が3割も減ったのは重大なことなのです。
窪田:なるほど。子どもが楽しく体を動かす外遊びは、将来的に運動習慣を持てるかにも関わっていると。
為末:それがゆくゆくは、医療費の増加にも影響していくと思います。運動能力の低下でいうと、今、子どもの運動能力はどんどん差が開いてきています。大谷選手のようなスーパースターが出る一方で、運動が全然できない子が増えて、両極端になっている。
この流れは、先進国でより明確です。スポーツが民営化されると子どもたちはお金をかけてスポーツを習うようになりますが、そうすると肥満などの健康状態や運動能力が、経済格差とリンクしていく。日本でもそうした変化が始まりつつあります。誰でも無償でできる外遊びは、その差を埋められる重要な要素なのです。
窪田:格差の広がりを抑えるためにも、外遊びを推奨していく必要がありますね。
為末:そう思います。一昔前までは、お金持ちの子どもは “もやしっ子”などと言われていましたが、最近ではそういう子たちほどスポーツを習って、体を動かしている。今は放っておけば子どもが外で遊ぶ時代ではないので、いかに外に連れ出すかが課題だと思います。
窪田:たしかに外で遊ぶよりは、家でゲームをしている子どもが増えています。中国では、18歳未満の子どもたちにゲーム時間の規制をかけるなど、かなり思い切った政策を展開していますが、為末さんは子どものゲーム禁止についてはどう思いますか?
日本ではなぜイノベーション人材が育ちにくいのか
為末:日本ではそうした極端な政策は馴染まない気がしますね。外遊びを推進するには、ゲーム禁止よりは「公園をもっと楽しい場所にする」といった方向でアプローチしていったほうが、日本人には合っていると思います。