「いつでも、なんでも診る」医師が日本にいない訳 「かかりつけ医」がいるのに"たらい回し"の例も
男性は高齢の奥様と2人暮らしでしたが、奥様には認知症があります。
困ったときにたらい回しにされた患者さんが来てくれた夜は、近所に住む娘さんや、息子さんのお連れ合いを頼っていました。このときも男性が電話で体調不良を訴えると、2人は心配して駆けつけたそうです。
2人は休日診療所を探し出して、男性を連れて行きました。けれども、その休日診療所でも坐薬の吐き気止めを出されただけでした。
「このような治療でよくなるとは思えない」と考えた2人は、インターネットで休日でも開いている当院を見つけてやってきたのです。
診療室に入ってきた男性はふらついていて、血圧が下がっていました。風邪の症状がきっかけで、脱水状態になっていると考えられました。あと1日でも受診が遅れていたら、命の危険にさらされていた可能性があります。
点滴で水分補給をすると、症状が落ち着き、本人も「楽になった」と言います。ホッとした様子を見せたご家族と男性は帰宅しました。翌日以降、何度か通ってもらいましたが、5日ほどで元気を取り戻しました。
この方と似たような患者さんが、私のクリニックにはしょっちゅうやって来ます。
本当の「かかりつけ医」がいない
読者の皆さんは、このエピソードを読んでどう思ったでしょうか? 「なぜ、そんなことになったのか」と驚いたでしょうか? あるいは「ありそうなことだけど、結果オーライでよかった」と思ったでしょうか。
いずれにせよ、これが日本の地域医療の現状です。困っている患者さんがクリニックをいくつ回っても、適切な治療を受けられない場合があるのです。
世界トップクラスの医療技術を持つといわれる日本ですが、それは病院での医療です。一般の人たちが「どうも体調がすぐれないな」と思ったときにまずかかる初期診療の現場で、適切な医療が提供されているとは言いがたいのです。
「初期診療の現場で、適切な医療が提供されない」ということが起きる根本的な原因は、「本当のかかりつけ医がいない」からだと私は考えています。
この90歳の男性を診察した4人の医師には、「自分はこの男性のかかりつけ医だ」という意識がなかったと思われます。男性が「かかりつけ医」だと信じていた内科の医師にも、おそらく患者さんが期待していたほど「大事なうちの患者さんだ」という気持ちはなかったのでしょう。そして、患者さんを危険な状態に追い込むことになったのです。
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