「働きやすい菓子店」が投げかける日本の大問題 従業員は全員女性「ロミ・ユニ」がしていること

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一方で、働き過ぎの抑制を求める社会の風潮は、職人の世界では必ずしも歓迎できないことも指摘する。

「経営者としてスタッフに求めるとパワハラになってしまいますが、本来職人の仕事は時間給で測れません。私自身もそうですが、特に働き始めてからの数年間、技術を習得するために働き詰めになったからこその今なんです」といがらし代表は力説する。

「みんなが時給で働き方を考えるようになった結果、職人は知識や技術をインプットして能力を伸ばす機会を失っている。材料代が上がっていますし、人件費も上がるこれからは、手仕事のお菓子は高級品になるか、商売として成り立たなくなると思います。フランスでは週35時間労働制が始まった2000年以降、お菓子の質も変わってきたし、手間や時間がかかるお菓子やプチフールなどはずいぶん少なくなったと思います」

「長時間労働で成り立つ世界」はどうなるか

長時間労働は、日本の大きな社会課題である。オフィスワーカーの労働時間が短くなれば、男性も子育てや家事に携われるようになり、少子化問題の改善につながるだろう。女性も仕事を続けやすくなり、2人目、3人目を望めるかもしれない。しかし、その考え方が通用しない世界もある。

賞味期限が短い菓子やパンを毎日作って販売するには、長時間労働が欠かせない。だからこそ、女性が定着するのは難しかったのだが、働き方改革が職人の世界に浸透すれば、今のように手間暇かけて作る菓子類は簡単に手に入らなくなるかもしれない。

ロミ・ユニの場合、イチゴのコンフィチュール「メルシー」が80g950円、フランス・ゲランドの塩を使った「キャラメル・ブルターニュ」80g1050円、イチゴとフランボワーズを組み合わせた「アニヴェルセール」80g950円など決して安くはない。「あと100円安かったら買えるのに」とお客から言われることあるというが、家庭で作るのと同じように手作りした場合、これが適正の価格だ。

(撮影:梅谷秀司)

いがらし代表の問いは、人が習得する技術の世界すべてに及ぶ。無理のない働き方をあらゆる業界に適用させ、大量生産の画一的な製品または庶民には手が届かない高級品の2択の世界を築くのか、それとも、長時間労働を残しつつ手仕事の製品に手が届く社会を選ぶのか。私たちは今その岐路に立っている。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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