名前が話題の台湾野球選手、本来の読み方に想い 名前を取り戻してきた「台湾原住民族」の歴史

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日本プロ野球でも活躍してきた郭源治氏、陽岱鋼氏、宋家豪氏、古林睿煬氏などの台湾出身選手も原住民族である。ただ、漢名であることもあり、日本では彼らが原住民族であることはあまり知られていない。そして彼らの伝統名は日本だけではなく、台湾でもほとんど知られていない。

【2024年11月22日19時08分追記】初出時の表記に誤認があったため、上記の通り修正しました。

社会の壁に立ち向かうギリギラウ選手

今の台湾社会でも伝統名を回復した原住民族はしばしば「変な名前」、「意識高い」という眼差しを浴びせられる。11月16日に行われた日台戦の翌日(17日)、台湾メディアはギリギラウ選手に名前が日本で話題になったことについて質問した。ギリギラウ選手はカメラに向けて明確に自身の名前の呼び方について「ギリギラウ・コンクアン(giljegiljaw kungkuan)」と2回発音した。

困惑気味になった記者は「もっと簡単な呼び方はないか」と聞いた。その質問を受けて、ギリギラウ選手は一瞬、眉をひそめてから、「ギラウ(giljaw)でもいいです」と答えた。

ただ、「ギラウ」は親しい友人や家族が呼ぶ名前で、本来は公式の場で用いるべき呼称ではない。つまり、台湾メディアの記者ですらギリギラウ選手の名前の正しい発音を視聴者に紹介するより「長い、珍しい、読みにくい名前」をネタとして扱っているとしか見えないやりとりだった。

ギリギラウ選手は、社会の壁に毅然と立ち向かっている。2012年からアメリカでプレーしていた際には、2019年にマイナーリーグでの登録名を「giljegiljaw kungkuan」に変更。アメリカでプレーした台湾原住民族選手の中で、初めて伝統名で登録したのはギリギラウ選手である。

そして2021年に台湾に帰国し、台湾プロ野球史上初の伝統名で登録する選手となった。台湾のプロ野球チームでの入団式では「(当て字である)漢字で登録しているが、パイワン語の発音で私を呼んでください」とファンにお願いしていた。

2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)予選でホームランを放って活躍した際に、台湾メディアも今回の日本社会と同様に「珍しい名前」、「読み方に困惑」と取り上げた。報道に対して、ギリギラウ選手の父親は「中国語の当て字ではなく、パイワン語で息子の名前を呼んでほしい。ギリギラウ・コンクアンは美しい名前ではないか、ぜひ母語で読んでほしい。いつもメディアの皆様にそうお願いしている」と訴えた。

ギリギラウ選手は決してひとりぼっちではない。彼が所属する台湾の味全ドラゴンズのチームメートの中にも、Villian Isnangkuan(ヴィリャン イスナンクァン)選手やMasegesege Abalrini(マスグスグ アバレイニ)選手、Namoh Iyang(ナモー イヤン)選手など、伝統名でプレーする原住民族選手は増えている。ありのままの伝統名を背負ってプレーする選手たちの姿は、多くの原住民族に勇気と誇りをもたらしているだろう。

許 仁碩 北海道大学メディア・コミュニケーション研究院助教

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シュ ジェンシュオ / Jenshuo Hsu

北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院助教。台湾出身、2020年に北海道大学法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。北海道大学法学研究科助教などを経て、2022年から現職。元「アップルデイリー」日本通信員。21年から「社団法人台湾人権促進会」理事。23年から「NPO法人日本台湾修学旅行支援研究者ネットワーク(SNET台湾)」特別研究員。

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