状況が変わったのは、小学3年生の夏休み前。それまで通っていた学童保育に娘が行きたがらなくなったのだ。
このまま学童への行きしぶりが続けば、共働き世帯にとっては死活問題。そんなとき目にとまったのが、「夏期講習無料」というネット広告だった。
娘ももう3年生、勉強の習慣を付けるのに塾に行くのもいいかもしれない。しかもキャンペーン中は無料というなら、お試しで行くのも悪くはない。そして同じころ、こころちゃんも、あるチラシを持ち帰ってきた。
それは偶然にもみずほさんがネットで見ていた塾のものだった。
こうして矢沢家は夏期講習を申し込むことに。講習に通う娘は得意げだった。
「この問題、すごく難しい学校の問題らしいんだけど、私解けちゃった!」
「塾の先生がね、よくできたって褒めてくれるんだ」
「塾の勉強って、学校の勉強と違ってすっごく楽しいんだよ」
そんな娘の姿に背中を押され、母親は正式入会の書類にサインをした。首都圏を中心にいくつも校舎があるこの塾は、自習室もあり、学校の宿題も見てくれるということで、共働き家庭の人気も高い。3年生の2学期の塾代は月に1万円にも満たないため、これで子どもの安全な居場所になるだけでなく、学校の勉強も見てもらえるのならば、悪い話ではないと思う家庭は多い。
「御三家クラス認定証」
こうして始まった新学期、両親は、このまま学習習慣さえ定着してくれればいい、その程度の気持ちだった。だがある日、こころちゃんは「御三家クラス認定証」なるものを手に塾から帰ってきた。
「なんか私、すごく勉強ができるみたいで、先生が中学受験に向いているって!」
親のほうは、これが塾の営業トークだということをきっと心のどこかではわかっていた。しかし、子どもはすでにその気になっている。
入塾を迷う両親に、塾はたたみかけてくる。
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