「家父長制」は不変なのか?長い歴史から紐解く 世界各地を訪ね歩く科学ジャーナリストの視点
国連のデータによると、現在、低所得国の農業労働人口のほぼ半数、そして世界の小規模な家畜業者の半数近くを女性が占めていることがわかっている。女性は体力的に農業労働ができないという考えは、事実に基づいていないのだ。
活動家で学者でもあるアンジェラ・デイヴィスは、アメリカの奴隷制度について次のように書いている。「女性は男性に劣らず有益な労働力とみなされていたため、所有者にとって、奴隷には性別がないも同然だった」。妊婦や乳児を抱えた女性も働くことが期待された。
犂が女性の地位を変えた?
奴隷制のもとでは、女性は男性と社会的に対等だったとデイヴィスは説明する。女性の奴隷は丸太を運んだり、ラバや牛を使って土地を耕したりといった重労働もしていたと、ウォルター・シャイデルも言う。
これに対して、女性の地位を変えたのは農業全般ではなく、犂(すき)を使うような特定の農業だったと主張する研究者もいる。一部の研究によれば、男女が平等なコミュニティでは、鍬(くわ)を使って手作業で耕すことが多い。家畜を利用し、上半身の強さが必要な犂を使った農作業は、男性優位なコミュニティで見られることが多かった。
だがこれも、必ず当てはまるルールというわけではない。すべての男性がすべての女性よりも身体的に強いわけではなく、個人の体力は生涯にわたって変化していくことを踏まえると、身体の強さばかりが期待されるはずはない。
犂を使う社会でも、女性が屋外労働に従事することはあった。シャイデルは、19世紀にヨーロッパのバスク地方を訪れたある旅行者の言葉を引用し、こう述べている。女性は「畑仕事で男性に劣らない働きぶりを見せた。牛に装具をつけて引いたり……荷馬車を操って市場に行ったり、畝(うね)に沿って犂を動かしたりしていた」。
農村地域に住む人たちの日常生活が、都市に住む富裕な人たちの文化的な理想や思い込みと一致することはめったにない、と彼は指摘する。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら