「家父長制」は不変なのか?長い歴史から紐解く 世界各地を訪ね歩く科学ジャーナリストの視点
歴史学者によると、この場所が人類の文明の発祥地だと言われており、現在のトルコ、シリア、イラク、クウェートの一部にあたるこの地に、アテネの黄金時代より3000年ほど前、シュメール人が世界最古の「本格的」な都市とされるものを築いた。
彼らは小さなダッシュ記号のような印が並ぶ楔形文字を生み出し、それは世界最古の書き言葉と言われている。シュメール人に続いて、アッカド人、バビロニア人、ヒッタイト人、アッシリア人がこの地を支配し、やがて古代ギリシャが繁栄した時代と重なった。
スコットの説明によると、こうした初期の国家に暮らす人々は、国家の外に暮らす人々に比べて、予測可能な安定した生活を送っていた可能性がある。だが、ほかのさまざまな点では、厳しい生活でもあった。
不平等と家父長制の裏にある「人口」
比較的自由な狩猟採集社会とは異なり、穀物に依存した限られた食生活が主流となり、人々は大量に保存された穀物を一定の割合で分け合った。若い男性はいつでも戦場に赴くことを期待され、死の危険に直面していた。若い女性は、できるだけ多くの子を産むべきだという圧力にさらされていた。
「これら初期の国家では、人口が問題でした」とスコットは言う。「不自由な条件のもとで人を集めて、彼らをそこに留まらせるにはどうしたらいいか。国家を運営する支配層や聖職者、職人、貴族や王族が必要とする多くの食料を生産させるにはどうしたらいいか。それが問題でした」。
不平等と家父長制の拡大を理解するうえで鍵となるのは、人口なのだ。人口規模の維持とその管理が極めて重要だった。
しかし、これまでは財産が注目されることが多かった。フリードリヒ・エンゲルスをはじめとする19世紀の哲学者らは、男性が女性に対する支配権を確立したのは、人類が農業を始めたのと同じ頃だと考えていた。つまり、人々が土地や家畜といった所有できるものを蓄え始めた頃である。
支配層や上流階級の人々が富の大部分を管理するようになった。そして、それに伴って、男性は子どもが本当に自分の子どもなのかを確認し、財産を正当な相続人に受け継ぐ方法を探し始めたとエンゲルスは主張した。だから、男性は女性の性的自由を制限するようになった。
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