原発危機の経済学 社会科学者として考えたこと 齊藤誠著 ~事業としての原発の行方を論じる
原発事故が起こった際、市場参加者は、国内外で繰り返される経済危機との共通点を見いだしたのではないだろうか。減価償却を終え、技術的にすっかり古くなった原子炉を使い回して収益を高めようとしたことは、高金利の新興国に投資するキャリートレードのようなものである。テールリスク(原発事故や通貨危機)が高収益の源泉だが、それが顕在化してしまった。
米国のファニーメイなどと同様、原発事業は民間事業ではある。しかし、暗黙の政府保証が付与されていたため規律付けが欠如する一方、低金利での資金調達が可能となり、事業リスクが見過ごされていた。
本書はマクロ経済学・金融論の大家が、事業としての原発の行方を論じたものである。原発事業が撤退プロジェクトであるとしても、原子炉解体や使用済み核燃料の処理・貯蔵には相当の長い年月を要する。それらを首尾よく成し遂げるには、人的資源を含め経済資源を投入する必要があり、費用捻出には原発の運転を続けざるを得ない。
しかし、採算は合うのか。収益事業として考えた場合、再処理・高速増殖炉事業から完全に撤退すれば、軽水炉発電事業は何とか成り立つという。火力のコストよりも若干高いが、著しく劣るわけではない。その際、収益をカサ上げするために原発の耐用年数を延長することは、問題だという。技術の古い原発で事故が起こっただけでなく、耐用年数延長を政府が認めたことが、震災直後の経営者の判断を歪め、事故対応を誤らせた可能性があると論じる。