春山:ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)で、非行に走った子たちはホールケーキを3等分できない、認知機能に問題を抱えていることが多いという話が書かれていました。ずっと室内で過ごしている、関わる人間が自分の親だけといった閉じた空間での生活空間となり、認知能力が育たなかったのではという……。
これは私なりの解釈なのですが、空間認知能力が発達するということは、「今これを言うと相手が傷ついてしまうな、場が止まってしまうな」という他者の心理まで想像ができることでもあるかと思っています。
窪田:それはとても興味深い考察ですね。社会性も自然の中で育てることができるというわけですね。
春山:はい。人間にとって昔ながらの自然環境が、身体だけでなく知性や共感力を鍛えられる最強の教室なのではと考えています。
窪田:そうですね。山のような予測できないことが次々と起こる自然環境では、足腰以外の面も鍛えられます。だからこそ好奇心を掻き立てられるし、その予測不可能な状況を苦しいというよりも楽しいと捉えられるようになりますね。
教室という箱の中で学ぶことの限界
春山:日本における学校教育は、教室という箱のなかで先生1人に対し生徒三十数人が学ぶスタイルです。ですが、変化の激しい社会を生き延びていくことを考えると、自然のなかで大人も子どもも、あるいは子どもたち同士で学ぶことも必要だと思います。
窪田:確かに、学校教育を受けている間は、決まった教室で決まった先生に決められた学習内容を教わるわけです。今までは予定調和な世界だったのが、実際に社会に出るとだいたい自分が予想したことは裏切られることが多くなりますね。山などの自然のなかで鍛えられる判断力や直感力は社会でも大いに役立ちそうです。
春山:そうですね、自然の中で過ごすと都市のありがたさも身に沁みますよね。時間通り、予定通りに物事が進むことがいかに異常で、ありがたいことかわかります。