窪田:教育関係者の中にも、子どもが山で過ごすことが心身の発達に良いとおっしゃる人が増えてきましたよね。
春山:そうですね。第1回の対談で事例として挙がった台湾では、近視抑制のために1日合計2時間の屋外時間を小学校で確保したということでした。日本なら、目をはじめとした人間の身体全体における健康面に良いという、さらにもう1歩踏み込んだ話ができるのではと思っています。
窪田:そうですね。外で過ごすことで、人間が本来持つ身体の力を呼び戻せるのは目だけではありませんよね。
春山:外遊びは知性にいちばん響く、知性を鍛えると思っていて、このことをテーマに今年の春、対談本を出しました。慶応大学教授の安宅和人さんが『ハーバード・ビジネス・レビュー』に「知性の核心は知覚にある」とも書かれています。
私が思うに、人類最大のイノベーションは歩くこと。平らな場所をまっすぐ歩くだけでもかなりの情報を脳処理していると思います。歩く場所を山にすることで、空間認知能力も育てることになるかと感じています。
窪田:確かに。私も今年ベトナムで山歩きをしました。進むのに木の枝をつかまないといけない場所があったのですが、中にはとげがついている枝もあり、 どの枝をつかむか瞬時に判断しなくてはならない。自然の中には良いトレーニングがあると実感しました。
春山:おっしゃるとおりです。山の中を一歩一歩進んでいくと、滑りやすいところがあったりするので瞬時の判断力が求められます。ある程度歩いて振り返ると山麓からは高度があり、結構高くまで登ったことを実感できます。また道に迷わないよう周囲を注意して歩きますよね。
山で育まれる真の空間認知能力
テレビや動画、ゲームは画面が変わらないと見ている景色が変わりません。ですが、山をはじめとする自然の中では、自分が歩くことや動くことで見える景色や世界が変わる。この感覚を頭でも身体でも理解することがとても重要ではないでしょうか。