ゼネコン界に舞い降りた天使「奥村くみ」誕生秘話 奥村組社長は「建設バカ」シリーズを推していた

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制作サイドが村田氏の言葉を意識したわけではないが、奥村くみシリーズをくまなくみていると、村田氏が強調する建設業の5つの魅力が、ほぼ盛り込まれていることがわかる。だからこそ、ライバル会社の動きには批判的な姿勢でいることが多いゼネコンのベテラン社員も、奥村くみに親近感を持ち、抵抗感なく受け入れるのだ。

「来たー、現場」。憧れの仕事への就職を果たした奥村くみ。先輩社員に連れられて、初めて巨大な物流センターの建設現場にやってきた。むきだしの鉄骨。そびえるクレーン。思わず胸がときめく。そして絶叫してしまう。「好きだー」(奥村くみ篇第1話)。

子どものころから何かをつくるのが好きだった奥村くみ。建設中の物流センターに立ち、夕陽を見つめ、子どものころに砂の城壁や鉄骨の模型をつくったことを思い出す。現場を去る際に、鉄骨や床を見つめながらささやく。「また明日ね。また明日」(奥村くみ篇第2話)。

奥村くみは胸の内でつぶやく。「ひとりひとりの力がひとつになったとき、ヒトの力は想像をはるかに超える。どんな壁も打ち破ることができる」。そして力を込めて発する。「私たちは、チームの力を信じる」(私たちはチームだ篇)。

知名度が向上、採用面でも効果

経営面でも、奥村くみシリーズの効果は大きかった。奥村組は本社を構える関西では高い知名度だが、関東では「奥村組の名前を知らない取引先も多く、なかなか受注につながらないこともあった」(奥村社長)。

調査会社を使った同社の独自調査によると、CM開始前は関西での知名度(会社名の浸透度)は約50%だったが、現在は70%弱まで上昇している。一方、関東では2017年時点でおよそ30%でしかなかった。だが、現在では「倍ぐらいまで上昇した」(同)という。

採用面でも効果はてきめんだ。人手不足を背景に新卒の採用競争は激化する一方だが、奥村組はここ数年、年約140名の新卒採用の枠を順当に埋めている。「奥村組のブースはいつもにぎわっている」と準大手ゼネコンの採用担当者がうらやむほど、学生向けの就活ブースもつねに活気がある。

ただし、若手社員の定着率となると課題が残る。新卒社員の3年後定着率は直近で「85%程度」(井戸田氏)。60%台のゼネコンもあることと比較すると健闘しているものの、離職率が1桁台のスーパーゼネコンには見劣りする。

若手の定着率向上は、建設業界全体の課題でもある。ゼネコン各社は華やかなCMの残像が刻まれているうちに、待遇のさらなる改善や働き方改革を急ぐ必要がある。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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