ゼネコン界に舞い降りた天使「奥村くみ」誕生秘話 奥村組社長は「建設バカ」シリーズを推していた

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建設業界におけるマーケティング戦略において、奥村くみシリーズはエポックとなった。かつて、清水建設など幾多のゼネコンがCMを展開してきたが、俳優を用いたものはほとんど例がなかった。

最近では大成建設のようにアニメーションを採用した柔らかいイメージを意識したCMがあるが、基本的にはインフラ構築の大切さや会社の経営方針を打ち出した「実直」「重厚」な内容が多い。

これに対して、奥村くみシリーズは俳優を使ったストーリー仕立てで、しかも思わずクスッとしてしまう笑いの要素も含まれている。これまでの建設業界にはなかった「軽快」な内容に、「あのCMはいいね」と多くのゼネコン関係者が賞賛する。

奥村組の奥村太加典社長
奥村組は1907年創業で通天閣(2代目)などを建築してきた。その5代目社長が2001年に39歳で就任した奥村太加典氏。創業者を曾祖父に持つ(撮影:今井康一)

建設業界は長い間、構造的な問題に悩まされてきた。とくに最近は、2~3年前に激しい競争をして獲得した工事が進捗し、資材高も加わって低採算に苦慮している会社が多い。技術者の高齢化の進行に加えて若手の流入が少なく、慢性的な人手不足問題も横たわる。施工不良を受け、組み上がっていた鉄骨を解体して建て直す事件が発生するなど品質問題も後を絶たない。

このように暗い雲に覆われていた業界に、さわやかな新風を呼び込んだ人物こそ、人気キャラクターとして定着した奥村くみだ。奥村組のCMの成功を見たほかの大手ゼネコンが続々と追随。西松建設や戸田建設、熊谷組といった大手ゼネコンも俳優を起用したテレビCMを開始した。

こういったCMの連打は、業界のイメージ改善に一役買っている。実際、足元では建設業に就職する新卒学生の数が増えており、とくに「建設女子」と言われる女性の技術者が増加している。

お蔵入りした案の「建設バカ」

建設業界全体に活気をもたらしたわけだが、奥村社長によると「まったく違う別のシリーズが展開されていた可能性があった」という。

奥村組は、2017年の初めごろに大阪国際女子マラソンに協賛することを決めた。マラソンのテレビ中継番組には協賛社CM枠が設けられていた。そのため「当社として初となるCMをつくらないといけない」(奥村社長)。

2017年の半ば、制作サイドとの複数回のディスカッションを経て、広告代理店が最終プレゼンの場で提案した企画案は2つあった。1つが森川さんを起用する奥村くみシリーズ。もう1つは、奥村組の社員を主人公とする「建設バカ」シリーズというものだった。

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