公助、共助ではなく自衛を余儀なくされる--『国民皆保険はまだ救える』を書いた川渕孝一氏(東京医科歯科大学大学院教授)に聞く

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その際、台湾の人が言うには、「日本は現在のスリランカと同じぐらいのGDPのときによく皆保険制度を作った。英断だった。しかし今や日本から学ぶものはない。たとえば健康保険、年金・介護、雇用保険、みなばらばらのままだ。台湾はむしろ後進性の優位で、日本を反面教師にした。強い政府が保険者の一元化も一気にやり遂げた」と。

── 一気に理想型に行くのは無理としても、医療制度改革はここ数十年進められてきたのでは。

このところ病院が黒字か赤字かといったことばかりを議論している。医療は社会共通資本などと言っているが、実態は医療配給。まるで医者に診てもらえるだけで幸せだというようなおかしな状況になっている。

私があきれ返ったものの一つに、厚生労働省が発表した11年から5年間の第7次看護職員需給見通しがある。充足率が99%に改善する見通しの下に、需要増をたかだか10万人に抑え、一方、供給は新卒者で5万人強充足することになるという。この少子化が著しいときに、同年齢の新卒20人に1人が看護師職に就く見通しとは。そんなことがありうるのか。

──ご自身は「病院可視化ネットワーク」を立ち上げてデータを収集、分析しています。

05年に22社と13病院から寄付を募って発足した。病院と企業の英知をうまくハーモナイズさせて近代化しようという試み。企業はいわば自由診療のみで競争している。そこに「サービス業としての病院」が学ぶ余地があるはずだということで始めた。

超高齢化社会においては、まさにバリュー・フォー・マネー。本当に価値があるものだけにしか、なけなしのカネは払えない。医療においても、たとえば英国で進められたように、がんの生存率をこれだけ改善させると目標をはっきりさせて国費の使途を決める。そのためにも事実を雄弁に語るデータは不可欠だ。

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