公助、共助ではなく自衛を余儀なくされる--『国民皆保険はまだ救える』を書いた川渕孝一氏(東京医科歯科大学大学院教授)に聞く

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保険者にも患者にも医療者にも泣いてもらう「三方一両損」の改革はすでに断念し、GDPが伸びない中でも、医療費は伸びている。それも医療の質の改善が進んでいるとはいえない中でだ。

──なぜ進まないのですか。

医療には利害を代表するプレーヤーが多すぎる。医療制度の改革が進んでいる国は強権発動が当たり前だ。韓国の大統領命令、フランスでのジュペ改革といったように、信念を持って果敢に取り組まないと抜本改革はできない。

このままでは、日本の医療は「公助」「共助」ではなく、自助、というより自衛を余儀なくされてしまう。そうすると、なし崩し的に保険外を含む混合診療が強まる。患者にとっては背に腹は変えられないからだ。日本人は賢いので、制度はどうであれ、運用上はなし崩し的にやっていくことがしばしばだが、それで自衛するのでは悲しい。

──政府は医療費の「適正化」を進めてきました。

医療費の伸びは薬剤によっている部分が大きい。もともと1万7000品目も保険薬価収載する必要があるのか。たとえば延命効果が2~3カ月しかない、末期がんの分子標的薬。極めて高額だ。こういった薬剤もバリュー・フォー・マネーできちんと議論していきたい。

──薬剤では後発品の利用も進みせん。

後発品を出したら調剤薬局は儲からないからだ。処方箋の7割は「よきに計らえ」で、薬剤師に任せる。医療費36兆円のうち調剤薬局は6兆円強。医薬分業以前は病院には払わなかった調剤技術料がその3割を占める。それも薬局だけは株式会社だ。実額1・8兆円もの技術料を払ってどんな価値があったのかも、問われるべきだ。

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