大阪名物「りくろー」カット売りは絶対にしない訳 「家族で楽しんでほしい」気持ちがコト消費につながる
また、チーズケーキは周囲のクッキングシートを剥がす際、その衝撃を受け、プルプルと揺れる。数年前にこのシーンを撮影した動画がSNSでバズったため、「プルプルゾーン」なるコーナーが設けられた。スタッフには、撮影しようとする人がいた場合、意識してプルプルするよう呼びかけがなされており、上手下手はあれど揺すって見せてくれるそうだ。素朴だが、立派なエンターテインメントだ。
中村さんは、「これも、創業のやわらかいチーズケーキのレシピを守っていたから生まれた魅力です。やわらかさは、幼児から高齢者まで食べられるファン層の拡大にもつながっており、変えずに続けていくことがやっぱり大事だと実感しています」と誇らしげに言う。
万人が味わえるやわらかいチーズケーキのファンはインバウンドにも広まっていて、なかでも欧米人に人気が高い。海外の濃厚なチーズケーキとはひと味違った菓子として喜ばれているそうだ。ちなみに、「プルプル」見たさに来日したファンが、某テレビ番組に登場したこともあったのだとか。
「コト消費」という言葉がない時代から、真面目に向き合ってきた
加えて、「コト消費」は、自宅に持ち帰って食べるシーンも考えて設計されている。焼きたてのチーズケーキで、カット売りしない理由がそれだ(なお、伊丹空港店では、飛行機内で食べる客に限り、
ワンホール約18cmでの販売スタイルを頑なに守るのは、家族で切り分けるシーンで、「おじいちゃんが孫にちょっと多めにあげる」「きょうだいで取り合いの喧嘩になる」などの家族団らんを喚起したいからなのだ。
ところで、マーケティングの定番の入門書に『ドリルを売るには穴を売れ』(佐藤義典著/青春出版社)がある。一見、「ん?」と思ってしまうタイトルだが、本書を読むとその意味がわかる。消費者はドリルが欲しいわけではなく、穴を掘りたいのであり、『穴』という『効果』に注目すべきだ……という内容だ。
同書は、この効果のことを「ベネフィット」と呼び、ベネフィットを起点としてマーケティングを考える重要性が書かれている。そういう意味では、りくろーが売っているのは単なるチーズケーキではなく、「家族や、大切な人との想い出を作ってくれるチーズケーキ」なのだとわかる。
かく言う筆者も、取材中に、
「切り分けて、大きいやつを親は取り分けてくれてたっけ」
「親になった今も、息子とレーズンの押し付け合いしてるもんなあ…」
などとしんみり感じた。筆者がりくろーのチーズケーキから思い起こす数々の思い出も、陸郎氏が作ってくれたものだったのだ。陸郎氏の創業からの思想が受け継がれ、多くの想い出を作り続けていることに、尊さを感じてしまう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら