日本のお家芸「柔道マンガ」の民主化と男女平等 「柔道部物語」「帯をギュッとね!」「All Free!」

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副題が示すとおり、男子に交じって無差別級に挑む若き女子柔道家の物語。とある大会の成年男子無差別級で15歳の中学生、しかも女子が勝ち上がる。その名は御船淳(みふね・じゅん)。“神様”と呼ばれた伝説の柔道家・御船久蔵十段の末裔であり、華奢な体格で大男たちを投げ飛ばす姿に観客は熱狂する。

『All Free! ~絶対!無差別級挑戦女子伝~』
青野てる坊『All Free! ~絶対!無差別級挑戦女子伝~』(双葉社)アクションコミックス1巻p38-39より

彼女はなぜ女子の部ではなく男子相手に戦おうとするのか。直接的な理由は、叔父・御船隼己(はやき)の存在だ。御船柔道の継承者として最軽量級の体で無差別級に出場し、多くの大会を制覇。しかし、淳にとって憧れの存在だった叔父は、圧倒的な体格とパワーを誇る外国人選手との試合中のケガで引退、世捨て人のようになってしまった。そんな叔父に再び「柔道は面白い」と思わせるため、男子と同じ無差別級の畳に上がるのだった。

昭和以来の柔道マンガの系譜に爪痕を残す

「柔道は自由だ……性別も体格も人種も年齢も関係ない 畳の上で向かい合ったならどっちが強いかしか関係ない!」と淳は言う。前述の大会では、決勝で無差別級A代表の選手に惜しくも敗れたものの、その戦いぶりは叔父の心に火をつけるに十分だった。

そこから二人の挑戦が始まる。目標は、男子の無差別級日本一を決める全日本柔道選手権への出場。いや、淳本人は本気で優勝を狙っている。もちろん強敵がひしめくなか、一筋縄ではいかない。さらなるラスボスは、隼己を下してから10年、世界の頂点に立ち続けるフランス代表ウルス・ダビデ。誰もが無謀と思う二人の野望の行方やいかに……!?

体格とパワーの差をスピードとタイミング、技のキレと連携で凌駕する。その一連の試合描写と技の解説が最高にスリリング。技そのものより、そこに至る過程(組み手争いやバランスを崩すための小技などの駆け引き)の重要性がよくわかり、柔道という世界の奥深さにゾクゾクする。

道着がはだけたまま組み合っている場面が多いのは気になるし、表現として粗削りな部分も少なくない。続編『All Free!! 無差別級挑戦女子本伝』(2021年~22年)では、いささか情緒過多に感じる描写もある。それでも、昭和以来の柔道マンガの系譜に爪痕を残した要注目作であることは間違いない。

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南 信長 マンガ解説者

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みなみ のぶなが / Nobunaga Minami

1964年、大阪生まれ。マンガ解説者。朝日新聞読書面コミック欄のほか、各紙誌でマンガ関連記事を企画・執筆。著書『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』(ともにNTT出版)、『やりすぎマンガ列伝』(角川書店)、『1979年の奇跡 ガンダム、YMO、村上春樹』(文春新書)、『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』(ともに左右社)など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。

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