5人のキャラ付けもはっきりしている。粉川は熱血漢でひらめき型の天才、斉藤はクールなテクニシャン、三溝はパワフルな巨漢、宮崎はすばしっこいチビ、杉はスキンヘッド(実家がお寺)のコメディリリーフ。つまり、粉川=アカレンジャー、斉藤=アオレンジャー、三溝=キレンジャー、宮崎=ミドレンジャー、杉=モモレンジャーの位置づけで、5人組の黄金比であるゴレンジャーの法則にのっとっているわけだ(実際、単行本1巻カバー折り返しの4コママンガで作者自身がゴレンジャーネタを描いている)。
そんな5人が切磋琢磨しながら、ライバルたちと戦っていく。シャープな絵柄は汗臭さを感じさせず、スピード感もバツグン。ひとつの試合をじっくり描いたかと思ったら飛ばすところは飛ばし、テンポよく読ませる。単行本全30巻の長編だが、青春群像劇的要素もあり、飽きさせない。最終30巻のカバーイラストに描かれたキャラは総勢130人。浜名湖高校の5人はもちろん、ライバルや指導者、家族までキャラが立っていて、“推しキャラ”には事欠かない。柔道シーンの迫力や主人公たちの3年間の成長(+その後)を描く点は『柔道部物語』と共通だ。
ただし、『柔道部物語』と大きく異なる点がひとつある。それは、柔道部に女子がいるというところ。浜名湖高校には粉川の幼なじみの清楚系女子・近藤保奈美と、その友達の元気女子・海老塚桜子がマネージャーとして在籍していた。それだけでも他校からは羨望の的だが、合同練習で訪れた佐鳴高には選手としての女子部員がいて、浜高の面々は気もそぞろ。さらに、粉川たちの2年時には、のちに天才少女として世間を驚かせる来留間麻理が入部してくる。その練習相手として、桜子も柔道着を着せられる羽目になるのだった。
彼女らの活躍ぶりも見どころだが、それはもちろん、現実社会における女子柔道の普及を反映している。
令和の名作『All Free! ~絶対!無差別級挑戦女子伝~』
女子柔道は1988年のソウル五輪で公開競技として行われ、1992年のバルセロナ五輪で正式種目となった。そのバルセロナ五輪に16歳で初出場した田村亮子(現・谷亮子)は、国民的ヒロインとなり、女子柔道人気に大いに貢献した。
田村亮子の愛称「ヤワラちゃん」は、言うまでもなく浦沢直樹『YAWARA!』(1986年~93年)の主人公にちなんだもの。連載時期も『柔道部物語』とほぼ重なり、柔道マンガ史上に残る名作であることは間違いなく、女子柔道マンガの先駆けでもあった。
そして令和においては、小林まことが『JJM 女子柔道部物語』(原作:恵本裕子/2016年~23年/社会人編2023年~)を描き、村岡ユウ『もういっぽん!』(2018年~24年)という女子柔道マンガの大ヒット作もある。
しかし、今回ご紹介するのはそこからさらに一歩進んだ究極の女子柔道を描いた名作――というより異色作、青野てる坊『All Free! ~絶対!無差別級挑戦女子伝~』(2020年~21年)だ。
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