日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
最後の『「甘え」の構造』は、精神科医で東大教授も務めた土居健郎の著作で、書名のとおり「甘え」を日本人の心理あるいは日本社会の構造を理解するキーワードとしてとらえ、そこから日本人の精神構造の特性を論じていくものである。
英訳タイトルが“The Anatomy of Dependence(依存の解剖)”となっていることにも示されているように、(集団内部あるいは「身内」における)「依存」的な関係性のあり方に日本社会の特質を見る内容となっている。
高度成長期前後の日本人論の特徴
以上、日本人論の代表的存在と言える4つの著作について概観したが、ここで1点気づかされることがある。
それは、和辻哲郎の『風土』を若干の例外として、これらはいずれも日本人あるいは日本社会における人と人の「関係性」、あるいは「コミュニティ」ないし集団のあり方に主たる関心を向けているという点だ。
この点に関して、図を見ていただきたい。これは人間と社会をめぐるテーマを理解する際の基本的な枠組みを示すもので、土台に「自然」あるいは「環境」に関する次元があり、その上に「コミュニティ」(あるいは共同体)の次元があり、さらにもっとも上層に「個人」という次元がある構図になっている。
そしてこれらと日本人論との関係について見た場合、先ほど述べたように、高度成長期を中心とする代表的な日本人論は、この図の中での「コミュニティ」のレベル(あるいは「コミュニティ」と「個人」のレベルの関わり)を基本的なテーマとしていることに気づかされる。
裏を返すと、図のピラミッドの「自然」とか「環境」に関わる次元、つまり日本人の自然観とか、人間と自然の関係性に注目したものは少ないということだ。そして、後ほど話題にする「アニミズム」、あるいは日本文化の“アニミズム的性格”という視点は、まさにこの「自然/環境」の次元に関わるのである。
ちなみに図においては、先ほど取り上げた代表的日本人論の4作品と並んで、それに準ずるような影響力をもった著作として、
・河合隼雄『母性社会日本の病理』(1976年)
・梅棹忠夫『文明の生態史観』(1967年)
の3つを加え、図のピラミッドの3つの次元に関連づけている。
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