採択相次ぐ!「育鵬社教科書」本当の問題点

「右・左」だけでなく、グローバル視点で課題

――世界史でいえば「ヒッタイト」ですね。鉄器を持つことが権力拡大につながった、という事実が、世界各地で当てはまるのですね。

櫻井 光政氏

そうです。ヤマト王権は自分の権力を維持するため、当時の先進国であった朝鮮半島から鉄とその加工技術を得ていた。非常に分かりやすい構図が見えてきます。

一方、育鵬社にはそうした記述は一切なく「このころ、大和地方を基盤としてつくられた、大王を中心とする政権を大和朝廷(大和政権)と呼びます」と書かれています。これでは、なぜ、大和朝廷の存在感が他の豪族と比べて際立ってきたか、分かりません。

経済政策に関する記述での問題点

――歴史を学ぶ際は「なぜ」そうなったか、分かると面白いです。この記事の読者はビジネスパーソンが多いのですが、経済政策に関する記述で何か知っておくべきことはありますか。

徳川綱吉の小判改鋳。これは面白いと思います。帝国書院は、綱吉が貨幣の質を低下させたことをはっきり書いています。「金の含有量を約30%も減らしたことから、1枚の小判の価値が変わってしまい、経済が混乱しました」と。これはとても大事な指摘です。貨幣の質が低下し、流通量が増えてインフレが起きる。子どもの頃、こういう話を聞いていると、現代の経済政策について、理解が深まるはずです。

一方、育鵬社の教科書で、綱吉に関する記述を見ると、生類憐みの令については書いてありますが、貨幣の質を落としたことは書かれていません。その次に、新井白石について記述がありますが、白石が貨幣の価値を元に戻した、ということがいきなり出てきます。質を落とした時の記述がないため、理解しにくいと思います。

――それはビジネスパーソンには分かりやすいです。綱吉による経済政策の失敗を、帝国書院は明記し、育鵬社は避けているのですね。ところで、育鵬社の教科書を批判する人は、戦争を賛美している、と言うことが多いのですが、そういう記述はありますか。

実は、戦争自体を賛美する言葉は一言も書いてありません。そういうことを書いたら、検定には通らないでしょうから。

――右派の教科書だから戦争を賛美している…というような、ざっくりした話ではないのですね。

そうですね。ただ、近現代史に入ると、編集方針が分かりやすく見えてくる面はあります。例えば、私が採択に関わったときには、育鵬社の教科書には帝国主義という言葉が一言も出てきませんでした。帝国書院の教科書には、もちろん、出てきます。日本は欧米と比べて近代化が遅れている中、帝国主義の仲間入りをすべく、国の名前にも「帝国」とつけて、がんばっていた、という事実があるので、それを書かないのは歴史を学ぶうえでまずいのではないか、と思います。

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