発送配電を分離せず現場力を生かす再生を--『東京電力 失敗の本質』を書いた橘川武郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)に聞く
電力業研究の第一人者が描く現実的な再建シナリオとは。発送配電(発電・送電・配電)分離は真の解決にならないという。
──発送配電分離はダメですか。
電力産業再建の現実路線は、長期的には原子力発電を減らすけれども、とりあえずは再稼働させるもの。東京電力も現場の力が生きるような形で会社として残して、ほかの電力会社と競争させるのがいい。
発送配電分離論者は、基本的に現場を知らない。私は電力10社中7社の社史を書き、訪れたことがないのは沖縄電力だけ。ひとえに停電は起こしたくないと動く現場の力を発揮させるのには、発送配電分離では解決にならない。発送配電分離論は発想として電力会社性悪説で、制度改変で懲らしめようとしている。
今度の事故も福島第一原子力発電所ばかりが注目されているが、同時に広野、常陸那珂、鹿島の三つの火力発電所が津波でひどい壊れ方をした。この3火力の出力は計920万キロワット、福島第一の910万キロワットより多い。それを夏までにすべて建て直した。確かにフクシマフィフティも頑張っているが、現場の力があればこそシステム改革もうまくいく。
──東電は現在、“ゾンビ企業”ともいわれます。
本来なら法的整理をしたうえでグッドカンパニーとバッドカンパニーに分け、働きやすく、将来を担える会社にしたいところだ。それが、今のままでは人も技術もカネも集まらない。
これは民主党のパワーゲームの手持ちカードにされているからだ。民主党政権は少しでも人気を取り戻して選挙に勝ちたい。そこで、東電をどうするか、原発の再稼働や発送配電分離をどうするか、を政治的なカードとして取っておく。いざとなったとき選挙との関係で切れるカードとして温存するためだ。この政治の論理に左右され、パワーゲームの材料になってしまっている。