発送配電を分離せず現場力を生かす再生を--『東京電力 失敗の本質』を書いた橘川武郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)に聞く

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──競争促進のために発送配電分離を、といわれます。

分離すると電気の安定供給に支障が出て停電が起きやすくなる。日本は電気代も法人税も高く、環境規制も厳しいにもかかわらず、たとえばトヨタ自動車が国内に工場を残しているのは、ノウハウを外に盗まれたくないことに加えて、停電がないことにある。停電すればその状況は一変して、いっそう産業空洞化が進む。

原発が再稼働しなくて供給不安があるときに発送配電分離をしたら、円高でなくてもリスクはいっそう高まる。もともと停電は、なったら問題だけではなくて、なるかもしれないというだけで、半導体や液晶、バイオをはじめとした高付加価値品が造れなくなってしまう。

──では、それ以外に競争条件をどう整えるのですか。

民営のまま、地域別をなくす。今はただ1例、九州電力が中国電力に攻め込んだイオンの広島店に対する供給しかない。強い大口需要家が競争に動くのがいちばん現実的だ。

──すでに価格決定権は大口需要家が持っている?

今や電力は、自由化で6割が競争下で決まり、残り4割が規制されたままになっている。その6割の価格は相対で決まるから、電気料金はかなり下がっている。4割の家庭用小口の規制もなくして、現状では50ヘルツと60ヘルツとの周波数差という壁があるものの、たとえば東電か東北電力か、中部電力か関西電力かなどと供給先を選べるようにするといい。

特に西日本では沖縄を除く6社は送電線もつながっているし、卸市場もあるから、本来は大いに競争できるはず。たとえばトヨタが西日本の工場一括で最低価格の会社から供給を受けるようにしたらどうか。それを突破口にする。

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