世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態 沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー

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沖縄本島で採集できるのはリュウキュウクチキゴキブリ(タイワンクチキゴキブリの琉球亜種)であり、調査地のある沖縄本島北部に広がる豊かな森林「やんばる」まで毎年調査・採集に行くのである。

やんばるは、クロイワトカゲモドキやテナガコガネ、ヤンバルクイナなど沖縄固有の生物にあふれた生き物屋垂涎の場所だ(生き物好きの中でもある一線を越えてしまった人種を「生き物屋」と呼ぶ)。

一生浮気はなし

クチキゴキブリは朽木を食べながらトンネルを作り、そこで家族生活を営んでいる。父親と母親は生涯つがいを形成し、一切浮気しないと考えられている、もしかすると人間よりも一途な生き物である。一生浮気せずに同じ個体と、という生き物は非常に稀であり、これだけでも研究する価値がある。

しかも、彼らは「卵胎生」という、卵が母親の体内で孵化(ふか)して子が直接お母さんのお腹から出てくる繁殖形態をとる。卵胎生はサメやダンゴムシ、マムシ、タニシなど、実は分類群を越えてぽつぽつ存在するが比較的珍しい。クチキゴキブリは交尾後約2カ月で子が生まれると、両親ともに口移しでエサを与えて子育てを行う。

両親揃って子育てを行う生態は鳥類などでは多く見られるが、昆虫ではこれまた非常に珍しい。成虫になった子は5〜6月に実家の朽木から飛び立つ。私はこの成虫になる前の子を狙って、4月にやんばるへ毎年やってくるのである。

ゴキブリ目線で語るとなんとも恐ろしい存在だ。

しかし、安心していただきたい。何も親を殺して子を奪い取ろうというのではない。彼らは両親と子で構成されたコロニーで生活している、いわば核家族世帯である。私はその仲睦まじい家族を血も涙もなく引き裂いたりはせず、一家まるごと採集する。これで、まだ小さな子も親がいて安心だ。私もゴキブリがたくさん採れてうれしい。Win‒Winである。

しかしうれしいことばかりではない。なんと私はゴキブリアレルギーになってしまったため、クチキゴキブリを素手で触ると無数の水ぶくれができてしまうのである。クチキゴキブリの脚には無数の棘があり、それが皮膚を貫通するのだ。脚の棘は刺さると血が出るくらい鋭い。薄手ゴム手袋もなんのその。

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