女性活用を阻む「日本的転勤」という大問題 「地域限定正社員」では解決しない!

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もちろん、それ以外にも、職種転換を図るなど、さまざまな努力で単身赴任ママをしている人もいます。でも、若手は「この会社にいる限り、早めに産むのをあきらめるか、家族が一緒に住むのをあきらめるかなのね」と思ってしまう。カイシャ側にはどうせ辞めるんだから女性を採るのをやめよう、減らそうという風潮も出てきているでしょう。

視聴者・読者としては、均質な人たちばかりで番組や紙面を作らないでほしいですし、たくましく生き残っているワーキングマザーたちの視点が活きた発信も増えているとは感じます。組織の中に多様性があってこそ、メディアの中立性というのは出てくるものだとも思います。マスコミに就職した若い女の子たちのためではなく、メディアのあり方を考えるうえで、これでいいのだろうかという疑問を感じます。

限定社員は「スキルを高める機会」が少ない

メディアの話でつい長くなりましたが、ここから転勤問題について考えてみたいのです。まず、そもそも日本の会社では、転勤やジョブローテーションが頻繁すぎる面があると思います。人を動かすのはコストですから、本当に必要な転勤なのか、もう少し見直す余地もあるのではないでしょうか。

とはいえ、そうすると不本意なところに配属になった人、配属先の人間関係に悩んでいる人がなかなか抜け出せないなど、ジョブローテーションのいい部分も失われてしまう可能性はあると思います。ある程度転勤やジョブローテーションが頻繁な中では、社員全員の個別の事情に配慮していられないというのも会社側の本音だと思います。

そこで出てくるのが、昨今話題になっている「限定正社員」です。転勤の場合は「私はこの地域でずっと働きたい」と宣言する「地域限定正社員」ですが、これらは転勤問題の解になるでしょうか。

総合職とは給与面などで差がつけられている場合が多いですが、「いつ転勤を命じられてもどこにでも行けます」という総合職はそれなりの負担を飲んでいるわけですから、多少の処遇の差があるのも合理的だと思います。

ただ、問題はあります。仕事の量や質は同じなのに、それだけで給与体系や、得られる成長機会なども非限定社員に比べかなり限られてしまう事例も多いのです。先日登壇させていただいたRIETIのシンポジウムで、慶應義塾大学の鶴光太郎先生が興味深いデータを紹介していました。

働く人への調査で「スキルを高める機会」があると、仕事や生活の満足度が高まるそうなのですが、限定正社員(すでに導入されている一般職など)では、その「スキルを高める機会」が少ないというのです。

色々な制約があってなお「やりがい」をもって働きたいというのは、とかくワガママと受け取られがちですが、私は『「育休世代」のジレンマ』でこの「やりがい」が失われてしまうと、結局は「子どもを預けてまで働く意味を感じない」など就労継続自体の意欲を失わせることにつながると指摘してきました。

最近になって「やりがい」の要素が女性の就労に大きく影響していることを指摘する研究や調査も増えてきました。仕事はそもそも生活のためのもので、「やりがい」があるかないかで就労するかどうかを選ぶのは高所得世帯の道楽のように見えるかもしれませんが、高所得でもそうでなくても、家事育児といった家庭でのケア責任を抱えている人にとって、そのケアを誰かに委託して働くのはコストがかかることで、一種の投資なのです。それをしてでも働きたいと思う、心理的な意味も含めた「効用」は働き続けるうえで重要です。

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