あえて遠い時代と見る感性が大事--『昭和天皇と戦争の世紀』を書いた加藤陽子氏(東京大学大学院教授、歴史学者)に聞く

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焦土は昭和天皇のキーワード。希有な体験をしたからこそ、戦後の皇居整備に際して、避難民の大量発生への対応を忘れることはなかった。昭和の森と呼ばれる二の丸の雑木林は避難した人々の夏場の日よけとして考えたもの。おほりは自然湧水がなくとも貯水量が40万トンほどある。50万人が1年命をつなげる水の量とか。こういうことも気にしていたという。

つまり三度目の焦土に備える視点だ。皇居のおほりと御苑に教訓を生かした。天災と国防はある種似ている。一気に人々の気持ちを変えることになる。天皇としては、戦争は放棄したから心配しないが、天災については備えの余地がまだまだあるということなのだろう。皇居にはおそらく、水の飲料用濾過装置もあるのではないか。

──波乱に満ちた3代の系譜の中で育ちました。

明治、大正、昭和の3代の天皇が近代国家を作った。富国がうまくいったときもあったし、強兵がうまくいったときもあった。富国ではどうしようもないというのが3・11であり、ほかへの転換を強いられている。

4代目を継いだ明仁天皇が即位20周年の記者会見で印象的な言葉を述べている。「昭和天皇にとってまことに不本意な歴史であったのではないか」と。賠償で国家同士では決着をつけたとしても、それで本当に謝罪ができたかは微妙だ。近年の関係国訪問は、父親の仕事で残された「決算」をしている旅とも受け取れる。たとえばサイパンでは韓国人の慰霊碑にも予定なく参拝した。

──この本は、昭和天皇論としてはまだ習作ですか。

終戦の45年から亡くなる89年までの後半生は44年ある。これに対して、この本は主に戦前、戦中に焦点を当てたから、昭和天皇の生涯をカバーできていない。

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