「キャラ」を使い分けるのは、悪いことですか 人を生きづらくさせる「観客からの圧力」

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一度演じるようになったキャラからいかに抜け出していくか。これは、現代社会において、人がいかに成長していくか、という問題とほとんどイコールといってもいいぐらいです。

逆にいえば、少し時代をさかのぼれば、そういう「固定化したキャラの問題」を回避する社会の仕組みがあったんですね。

その象徴が、徒弟制度です。お店に入った当初は「丁稚」だった人が、手代、番頭とだんだんと出世の階段を上る中で、いやおうなくキャラクターが変わっていく。「丁稚」と「番頭」では、ファッションも、話し方も、表情も、歩き方も、すべてが違う。つまり、社会システムとして「キャラが変わる」ステップがきちんと作り込まれていたわけです。

キャラから脱皮するための、オススメの方法

僕は「キャラクターを使い分ける」ということ自体には肯定的です。ただ、友達グループによってキャラクターを使い分ける、というだけでは、そこには成長の時間軸、すなわち「歴史」がありません。

つまり人間関係の「横軸」での変化ばかりで、人が成長していく「縦軸」のベクトルがないのです。これは長期的に見ると、しんどい状況だと思います。人間的成長をともなわずに、対人関係の中でキャラを変え続けるだけというのは、あまりに不毛です。

観客(オーディエンス)の力が強く、自分のキャラから脱皮できずに苦しんでいる人に、僕がオススメしている方法があります。それは「旅に出る」ということ。それも、あまり目的を定めない旅がいい。日本テレビの番組『笑ってコラえて!』に、「ダーツの旅」というのがありますね。ダーツの刺さったところにロケに行く、というあの企画。ああいうふうに、時には自分の運命をサイコロに任せてみる、というのがいいんです。

一人で旅に出て、周囲に自分を知る人がいないところでは、僕らは自然と、自分が知らなかった自分を演じ始めます。できれば5泊、短くても3泊以上のひとり旅に出る。帰ってきた頃には、あなたはそれまでの「キャラ」から脱却しつつあるのではないかと思います。

名越 康文 精神科医

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なこし やすふみ / Yasufumi Nakoshi

1960年、奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSコミュニケーションズ、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。
夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」刊行中。オフィシャルウェブサイトはこちら。twitterはこちら

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