東南アジアに目を光らせる中国の深謀遠慮 強引すぎる海洋進出が意味すること

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工場や事務所、倉庫、鉱山などの建設をサポートする中国による直接投資も増加傾向にある。1995年から2003年の間に中国企業はASEAN諸国に合計6.31億ドルを投資したが、2013年にはこれが300億ドルに膨らんだ。依然、日本、欧州、米国に遅れをとっているものの、中国企業の多くは海外進出意欲が強く、今後追いつく可能性を秘めている。

東南アジア企業は中国のこうした努力を無視するわけにはいかない。すべてのASEAN諸国10カ国が、米国の反対にもかかわらず、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立メンバーとして署名し加盟したのも、そのことが背景にあるのだろう。1000億ドルの初期投資を約束している中国は、AIIBを米国が支配する世界銀行のライバルとして位置づけ、アジア諸国の大規模なインフラニーズを満たすことを約束したのである。

ターゲットは東南アジアだけではない

アジアにおける中国に役割について、中国は単に野心的なだけではない。昨年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)会議で、地域の指導者たちは、中国を支持する自由貿易協定に向けて作業を開始することで合意した。このことは中国を除外する、オバマ米大統領の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への明らかな反対を意味するのである。

習近平国家主席がASEANとの自由貿易の野望を実現するかどうかにかかわらず、アジア諸国、さらにその先の国々との経済関係を深化したいという考えは間違いなくあるだろう。 中央アジアを走るシルクロード経済ベルトと東南アジア、インド洋、中東から欧州を結ぶ海洋シルクロードからなる「1つのベルト、1つの道路」構想に中国は約600億ドルを投じるとしている。一方の米国は、貿易に関する国内の合意をまとめるのでさえ苦労している。

確かに、中国にも挫折はあった。ミャンマーでの中止となった鉄道と水力発電プロジェクトや、係争海域での石油探鉱活動に対するベトナムでの暴動は、中国の資源飢餓が生み出す反発を反映している。しかし、中国が自国の過ちから学ぶことは確かであり、中国の指導者たちは、長期的な経済の賭けをする場合、どこに焦点を置くべきか、について明確なビジョンを持っている。

国内の分裂によって世界経済における米国のリーダーシップが弱体化している間に、中国は東南アジアでの影響力を拡大させた。こんな状態で南シナ海での問題がこじれた場合、果たして米国の同盟国は共に中国に立ち向かってくれるのだろうか。それとも米国の軍事力の背後に隠れて知らんぷりをするのだろうか。そのことを真剣に考えるべきだろう。

ケント・ハリントン 元CIA上級分析官

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ケント・ハリントン / Kent Harrington

元CIA(米中央情報局)上席分析官。東アジア地域や広報部門を担当した経験を持つ。

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