ここ数年で明らかになったことだが、「現実に存在している欧州通貨統合(EMU)」は経済的にも政治的にも高くついた失敗だった。欧州の諸機関への信頼は崩壊し、ユーロに対してだけでなく、欧州の計画全体に対して懐疑的な政党が勢力を伸ばしている。が、大半の経済学者は、失敗した実験を断念する時だと論じることに乗り気でない。
EMUの崩壊が「金融危機の生みの親」になる?
米経済学者のアイケン・グリーンの有名な論文は、予期されるEMUの崩壊は「すべての金融危機の生みの親」になると指摘している。この見方に異論を唱えるのは難しい。だから共通通貨ユーロの導入を支持したかどうかにかかわらず、あらゆる経済学者がユーロ圏の機能不全を少しでもよくする制度改革や政策変更の包括案を作り出し、推し進めることに過去5年を費やしてきた。
短期的には、ユーロ圏は金融・財政政策の大幅な緩和を必要としている。さらには、より高水準のインフレ目標(名目賃金と物価の下落を防ぐ効果)、適切な債務救済、権限を集中させ財政的歯止めも伴った適切な銀行同盟、各国の銀行が保有でき、国家と銀行の間の悪循環を断ち切る「安全な」ユーロ圏資産などが必要だ。
残念ながら経済学者たちは適切な財政同盟への支持を強く主張してこなかった。これが経済的に必要だと考える者も、政治的には不可能だと見て口を閉ざしている。問題は、この沈黙によって政治的に可能な範囲がさらに狭まり、より穏健な提案も頓挫したことだ。
5年が経ち、ユーロ圏にはいまだ適切な銀行同盟はなく、ギリシャが証明したように適切な最後の貸し手もいない。さらに、より高水準のインフレ目標は依然として考えられていない。またドイツ政府はユーロ圏内で国債のデフォルト(債務不履行)は違法だと論じている。景気変動を増幅させる財政調整がなお主流だ。
欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を受け入れたことは歓迎すべき前進だったが、加盟国の銀行システムを閉鎖する決定は大幅な後退だった。欧州通貨統合が現状のまま存続することを誰も想像できないものの、財政的かつ政治的な真の統合について語っている者はいない。
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