金価格の高騰にめげない田中貴金属の節約力
ワイヤ市場全体のうち、すでに約15%が金製から銅製へ置き換わっている。同社は13年にも銅製が約4割にまで上昇し、銀製も5%のシェアを占めると見込んでいる。
銅製ワイヤの市場が拡大すれば、銅線メーカーなどのワイヤへの参入が懸念される。実際、「台湾や中国の銅線屋がボンディングワイヤを作っているとの話もある」(秋元氏)。しかし、笠原社長は意に介さない。
「われわれは貴金属屋というより、むしろ加工技術の会社。細く長く、いかにきれいに巻くか。その技術がないかぎり、いくら銅の扱いに慣れていても競合にはならない」(同社長)。コアの競争力は、あくまで素材ではなく加工技術。貴金属の“節約”を突き詰めてきた同社は、その扱い方に絶対の自信を持っている。
金メッキや接点材料など節約の工夫はあちこちに
貴金属を“節約”する努力は、グループのほかの工業製品でも見られる。たとえば携帯電話の水晶振動子の気密に用いられる封止材。そこには金とスズの合金が使われているが、「2・5ミリメートルの厚さからどんどん小さくしている」(前出の原氏)。
電子材料の表面を覆う金メッキも、金とニッケルの合金にパラジウムを混ぜるなどして、金の使用量を徐々に軽減してきた。電気の接点材料でも、銀とパラジウムのうち、銀の割合を減らすなどしている。極小の電子デバイスの接合に使われる「バンプ材」では、金から低コストのパラジウムへのシフトが起きている。
「良いものを早く安く」。グループの社是には、こんな文言が躍る。貴金属会社でありながら、いかに貴金属を使わずに「安く」するかを追求する。それは創業以来、受け継がれてきたDNAともいえる。
専門家の間では、貴金属価格上昇は長引くとの見方が根強い。そうなれば、「GINZA TANAKA」は活気づくだろう。その裏側で、貴金属を節約するミクロ単位のさらなる努力が重ねられていくはずだ。
(本誌:許斐健太 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2011年11月12日号)
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