金価格の高騰にめげない田中貴金属の節約力
金庫内にとどまらず身近な電化製品の中に
田中貴金属グループの起源は、明治18年に東京・日本橋で開業した両替商「田中商店」にさかのぼる。現在は、持ち株会社のTANAKAホールディングスの下に、ジュエリーのほか、工業製品関連2社、販売関連など七つの事業会社を抱える。
両替商として出発、貨幣などから地金を再生する地金商へと脱皮した。その後、宝飾品を展開する一方、白熱電球の発光部分であるフィラメント(白金線)の加工など、工業分野への進出を遂げていく。
「時代に合わせて、事業領域を化学、自動車、エレクトロニクスなどに広げてきた」。TANAKAホールディングス、技術・マーケティング本部の原範明氏はそう解説する。
昭和27年には、オペレーターによる電話接続が自動交換機に切り替わったことに合わせ、貴金属製の「クロスバー接点」といわれる、電話交換機用の接点材料の生産を開始。また、自動車の普及に合わせ、排ガス浄化用の白金触媒も量産した。半導体の世界では、集積回路と電極をつなぐ金の極細線(ボンディングワイヤ)の生産も行っている。
現在では、「リベット接点」といわれる電気の接点や、燃料電池触媒、ボンディングワイヤなどで世界トップシェアを占める。家電や情報機器の中には、ほかにも田中貴金属製の材料が多く活用されている。「TANAKA」の名前は、宝飾品よりも、実は身近な電化製品の中で広く普及しているともいえる。
ではなぜ、工業製品として貴金属が活用されるのか。それは貴金属がほかの金属にない優れた特性を有するからだ。たとえば金は、何百年経っても色や形をほとんど変えず、輝きを失わない。これは金が有する抜群の安定性を示す。さびにくく、熱や薬品に強いほか、よく伸びる。さらに電気をよく通すため、あらゆる条件下で電気製品を機能させるのに、金は欠かせない材料なのだ。実際、携帯電話1トンには約400グラムの金が使われているといわれる。