「人はなぜ老いるのか」物理が導き出した答えは? 「水とインク」の実験から時間の流れを科学する

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太陽や星も同じです。超新星爆発を起こすなどの最期を迎える方向に向かっていくほうが、対応するミクロのパターンが多いのです。

ということは、こうした動きを制御して、無秩序に向かっていく方向とは逆の方向へと進ませることができれば、実質的に時間を巻き戻せるということです。

ただし、これをミクロなレベルで完全に制御するのは極めて難しいため、実際にはほとんど不可能だというだけなのです。

エントロピーと対を成す概念がエネルギーです。エネルギーは「保存の法則」によって、常に保存されています。

たとえば、ボールを押し出して転がすといつかは止まりますが、これはエネルギーが消滅しているわけではなく、摩擦によって、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されているだけであって、エネルギーの総量は変わりせん。

なので、「エネルギーを節約しましょう」というのは、物理学的に見るとおかしいのです。エネルギーの総量は変わらないので、節約も何もないわけです。

ただし、エネルギーの総量は変わりませんが、エントロピーは増えていきます。エントロピーが小さい状態だと、エネルギーは秩序のある形で存在しているということなので、より利用しやすくなります。

一方、エントロピーが大きな状態だと、エネルギーは無秩序に存在しているので、利用しにくくなってしまいます。

なので、私たちが「エネルギーを節約しましょう」と言っているときは、実は「エントロピーを上げないようにしましょう」と言っているということなのです。それが物理学的に言う「エネルギーを節約する」という意味です。

エネルギーを効率よく使うためには、なるべく秩序ある状態にとどめ、エントロピーの小さい状況にしておくことが大切なのです。

元々は産業革命期に「蒸気機関を効率的に活用するためにどうすればいいか」という社会からの要請で生まれた熱力学が、統計力学へつながり、それが時間という、私たちの世界の根源的な仕組みにも絡んでいるのは不思議で興味深いことです。

「時間が進んでいる」についての考察

統計力学的な考え方を元に、もう少し時間について考察していきましょう。

たとえば、先ほどの水とインクの例でいうと、インクを水に垂らして、それが広がって、水全体がピンク色に染まるとき、私たちは時間の経過を感じることができます。

でも、水がピンク色に染まったあと、ずっとその状態から変化がないように見えるとき、「時間が進んでいる」といえるでしょうか。

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