「人はなぜ老いるのか」物理が導き出した答えは? 「水とインク」の実験から時間の流れを科学する

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実際には、同じピンク色に見えていても、分子レベルで見ると、水分子とインクの分子は絶えず動いているので、そういう意味では、時間は流れています。しかし、私たちはその動きを認識できない。……なんだか話が複雑になってきました。

つまり私たちが通常「時間が進んでいる」と呼んでいるものは、マクロな世界に統計的に表れているものにすぎないのではないかということです。

赤いインクを垂らして水がピンク色に染まっていく過程に私たちは時間の一方向性を感じるけれど、実は、単に分子が方向性も何もなくランダムに入れ替わっているだけで、(可能性は極端に低いけれど)インクを垂らした瞬間の状態になることもある。

ピンク色に染まり切った水に私たちは時間の経過を感じないけれども、実は分子レベルでは状態は常に変化し続けている。

「時間が進んでいる」と感じているだけ

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このように、視点を変えると、根本的なレベルにおいて「時間の一方向性」は存在していないことに気づきます。

私たちは、統計学的に起こりやすい方向、つまりエントロピーが増大する方向に進んでいくことを「時間が進んでいる」と感じているだけなのです。

こういった視点から見ると、時間の流れの一方向性が単なる人間の認識であり、実際には存在しないという見方ができます。時間に方向性があると感じるのは、私たちが世界を認識する仕方に伴う結果なのです。

ここに私は統計力学の面白さを感じます。

相対性理論や量子力学に基づいた時間の遅れや重力の話はたしかにワクワクします。しかし、時間の根源的な謎に迫ろうとすると、全体の動きを大まかに把握する統計力学が必要になるのです。

野村 泰紀 カリフォルニア大学バークレー校教授

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のむら やすのり / Yasunori Nomura

1974年、神奈川県生まれ。バークレー理論物理学センター長。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員、理化学研究所客員研究員を併任。主要な研究領域は素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論。1996年、東京大学理学部物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。米国フェルミ国立加速器研究所、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。著書に『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』(星海社)、『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』(講談社)など。

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