別の例を出すと、たとえば、水の入った水槽に赤いインクを垂らすと、インクは時間とともに水全体に広がり、水全体がピンク色に染まります。しかし、いったんピンク色になった水が再び透明になって、インクが1カ所に集まることはない。つまり、時間の方向性が生まれているように見えるわけです。
この現象をミクロにみれば、インクの分子が水の分子と衝突しながら広がっているだけです。単に分子の衝突がランダムに起こっているだけで、そこに何らかの方向性があるわけではありません。
インクを入れた水が透明に戻らない理由
理論上は、いったん水の分子の中に拡がったインクの分子が、たまたま再び1カ所に集まることもあり得ます。
しかし、当然ですが、インクが再び集まるというのは現実世界ではまず起こりませんよね。これはなぜかというと、ランダムに衝突が行われるとき、インクが集まって見えるパターンに比べて、水全体がピンク色に見えるパターンのほうがはるかに多いからなのです。
単純化して考えてみます。たとえば、4×4に分かれた正方形で、インクの分子が左上に4個、それ以外のところに水分子が12個あるとします。そして、時間の経過とともに、隣り合った分子がランダムに入れ替わっていくとします。
しばらく時間が経つと、インクの分子がばらばらに分かれていくはずです。このとき、理論上はスタートと同じくインクの分子が4個固まった状態に戻る可能性もありますが、それよりもインク分子がばらばらに分かれる、つまり、ピンクに見える方向に進む確率が圧倒的に高くなります。
実際のところ、水の入った水槽には、12個どころではない水分子が存在しているので、赤いインクの分子が1カ所に集まる確率はもっと極端に低くなります。このように、統計的に見たときに、進みやすい方向に進んでいくというのが「時間の方向性」を表していると考えられるのです。
この概念を老化に当てはめると、体が若いままでいるよりも、老化した体に対応するパターンのほうが圧倒的に多いから、人間は必ず老いていくと考えられます。
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