「重力はなぜ存在するのか?」という問いは、物理学の歴史の中で極めて重要な役割を果たしてきました。数多の物理学者がこの謎に挑み、自然界の基本的な法則や宇宙の構造を解明していったのです。
カルフォルニア大学バークレー校教授で、素粒子物理学や宇宙論を専門とする野村泰紀さんも、そうした謎に挑む1人です。本稿では、野村さんの最新刊『なぜ重力は存在するのか』からの抜粋で、「時間はなぜ一方向にしか進まないのか」という謎について、物理学的な視点からの考察を紹介します。
時間はなぜ一方にしか進まないのか?
物理学の一分野である統計力学は、時間の性質について重要な示唆を与えてくれます。時間の進行が統計的な性質によるものだと考えることができるのです。
ニュートン力学、相対性理論、量子力学は、時間の前後を区別しません。すなわち、時間の方向性の概念は入っていないのです。
これに対して、私たちが感じる時間の一方向性、つまり「時間がなぜ一方にしか進まないのか?」という問いは、統計力学によって説明できる可能性があるのです。
時間の方向性を考えるうえで大切なのが、「エントロピー」という概念です。エントロピーとは乱雑さや無秩序さを示す尺度です。自然界の事象はエントロピーが増大する、無秩序な方向に進みます。
たとえば、正確な例ではないのですが、部屋は時間が経つと、どんどん散らかっていきます。汚い部屋が時間の経過とともに自然に片付いていくことはありません。これはつまり、きれいな部屋から汚い部屋への一方向性があると考えられます。
トピックボードAD
有料会員限定記事
ライフの人気記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら