生命の存在を明らかにする火星サンプルの可能性 世界が注目する火星サンプルリターン計画の内実

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着陸機が背中のロケットをぶん投げ、空中でエンジンに点火するのである。この一見クレイジーな方法を取るのには、もちろん理由がある。着陸機の上でエンジンを点火すると、その噴射で着陸機が動いたり破損したりしてロケットの発射時に思わぬ力が加わってしまう可能性がある。ぶん投げて空中発射すれば、そのようなリスクを防げるのだ。

そして火星軌道を漂うカプセルを待機していたサンプルリターン・オービターがキャッチし、イオンエンジンを稼働させて火星軌道を離脱、そして地球へと向かう。

地球到着3日前、再突入カプセルがオービターから分離される(写真②下段)。そして地球の大気圏へ突入し、アメリカの砂漠に着陸する。現在のところ、地球への帰還は2033年以降に予定されている。

火星に命はあるのか?

地球に戻ってくるサンプルの総量は数百グラム。それを届けるため、ローバー、ランダー、ヘリコプター、ロケット、オービターの5台の宇宙機が、火星から地球までの壮大なリレーを繰り広げるのだ。そして人類がはじめて手にする火星の岩のサンプルから、いったい何が見つかるのだろうか。

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たとえバイオシグネチャーが検出されなくても、数限りない科学的成果が得られることは間違いない。だがもし、そこに動かぬ生命の証拠が発見されたら……。

想像してみよう。約40億年前、地球の海に最初の生命が誕生してまもない頃、火星の湖の底にも命が生まれた。それはどのような形をしていたのだろうか。どのような仕組みで生きていたのだろうか。どのように進化したのだろうか。そして、その後の運命はどうなったのだろうか。

火星の過去の生命が発見されれば、地球の生命の起源についても多くのことがわかるかもしれない。地球は地質学的に「生きて」いるから40億年前の記録はほとんど消し去られている。いかにして最初の命が誕生したのか、そしてそれはどのようなものだったのか、ほとんど何もわかっていない。

生命誕生の記録は、火星のほうがよく保存されている可能性がある。つまり、2030年代に地球に届く数百グラムの火星の石の中に、「我々はどこからきたのか」という深淵な問いへの答えの断片が記されているかもしれないのである。

小野 雅裕 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)技術者

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おの まさひろ

1982年大阪府生まれ。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部助教。2013年より現職。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わるほか、将来の宇宙探査機の自律化に向けたさまざまな研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

ブログ: onomasahiro.net/
Twitter: @masahiro_ono

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