生命の存在を明らかにする火星サンプルの可能性 世界が注目する火星サンプルリターン計画の内実

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火星サンプルリターンの構想は何十年も前から何度もNASA内で持ち上がっては予算不足で潰えてきた。それがついに現実の計画となったのは、ちょうど僕がNASAジェット推進研究所に加わった2013年頃からだった。その内容はこの10年でいろいろと変わったし、これからも変わるかもしれないが、計画はこうだ。

3つのミッション

はやぶさは1台の探査機で地球・小惑星間を往復するミッションだった。火星は重力が大きいため、単一ミッションで行うには巨大な探査機が必要になってしまう。そこで、3つのミッションに分けて行う。 

最初のミッションが2021年2月に火星に着陸した火星ローバー「パーサヴィアランス」である(写真①)。

写真① 火星ローバー・パーサヴィアランスと、火星ヘリコプター・インジェニュイティ (C)NASA/JPL-Caltech/MSSS

その任務はサンプルを集めることだ。ドリルで岩をくり抜き、試験管のようなサンプルチューブに密封する。現時点で23本のサンプルを収集しており、もう15本分の空のチューブがある。23本のサンプルのうち、現在ローバーが持っているのは14本。9本は1年ほど前にスリー・フォークスと呼ばれる場所に置いてきた。

大事なサンプルを置きっぱなしにして大丈夫かと思われるかもしれないが、それを盗むような輩はいなさそうだし(いたら面白いが)、雨も降らず、大気が薄いため風に持ち去られる心配もない。一方のパーサヴィアランスはこの先も走行を続け、科学的に重要なサンプルを収集していく。

さて、2番目のミッションはESAによるサンプルリターン・オービターだ。はやぶさのようにイオンエンジンを搭載し、2029年に予定される火星到着後は周回軌道で待機する。

最後のミッションはサンプル・リトリーバル・ランダーと呼ばれる着陸機だ。その背中にはマーズ・アセント・ビークルと呼ばれるロケットと、サンプル・リカバリー・ヘリコプターと呼ばれる小型ヘリコプターが2機搭載されている(*)。

*火星サンプルリターン計画の構成の変更が議論されており、2機のヘリコプターはキャンセルされる可能性がある。

着陸は2030年かそれ以降なのだが、この時にまだパーサヴィアランスが元気であれば、サンプル・リトリーバル・ランダーが着陸した場所まで自走して持っている29本のサンプルチューブを手渡しする(写真②上段)。

写真② 火星サンプルリターン計画 (C)NASA/ESA/JPL-Caltech/GSFC/MSFC

もしパーサヴィアランスが走行不可能になっていたら、サンプル・リカバリー・ヘリコプターがスリー・フォークスまで飛んでいき、あらかじめ置いてきた9本のサンプルを取ってくる。そう、パーサヴィアランスが地表に置き去りにした9本のサンプルは、もしものためのリスクヘッジなのである。

サンプルチューブはロケットの先端のカプセルに収納され、火星軌道へと打ち上げられる。史上初めての火星からのロケット打ち上げだ。この打ち上げ方式がなかなか大胆だ(写真②中段)。

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