三菱自動車が「拠点再編」で攻める市場は? 北米生産撤退で戦略はクリアになった

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かつて三菱自動車は、リコール隠しの発覚や、資本・業務提携先の旧ダイムラー・クライスラーの支援打ち切りから、経営危機の淵に追い込まれた。コスト削減と新興市場の成長で収益を改善させ、2013年度は過去最高益と16年ぶりの復配を果たし、再建にメドをつけた。2014年度も最高益を更新しており、「撤退費用を賄うだけの資金力を蓄積している」(メリルリンチ日本証券の二本柳慶アナリスト)。また、米国の自動車市場が好調なことから、「売却先探しには有利」(相川哲郎社長)と見ているのも、決断を後押ししたのだろう。

現在、三菱自動車の世界生産台数は127万台で、日本とタイが全体の7割超を占める(上図)。日本は欧米向けの輸出拠点として、またタイは新興国向けの輸出車両を中心に生産している。

米国撤退による拠点集約で効率化を図る一方、今後の成長のカギを握るのがアジアでの拡大だ。得意とする東南アジア各国は、古い地域では50年前から進出し、販売チャネルを広げてきた。日系メーカーの中では「トヨタ自動車の次に知られたブランド」(フォーインの中田徹・アジア調査部部長)という。

実際、フィリピンでのシェアは20%でトヨタに次いで2位と、優位にある。現地拠点の年間生産能力は5万台だが、将来的には10万台を目指す。

インドネシアでは2017年に新工場が稼働

市場規模の大きいインドネシアでは、三菱商事との合弁で新工場(年間生産能力16万台)を建設中だ。

インドネシアの自動車販売台数は2014年に120万台を超しており、人口増加に伴って需要拡大が見込まれている。現状で三菱自動車のシェアは10%弱で5位。2017年に稼働予定の工場では、初めて自動車を買う顧客に人気が高い、7人乗りのMPV(マルチ・パーパス・ビークル)を生産する。

ただ、需要が確実に見込まれるこのカテゴリーは、ライバルも見逃さない。トヨタや日産自動車などほかの日系メーカーはすでにMPVを投入し、三菱自動車がどこまで販売を伸ばせるか未知数だ。

米国の生産撤退で懸案事項はひとまず片付く。が、北米でのシェアアップや、低迷する日本市場での挽回など、販売面の課題は残る。「生産能力の拡大と新商品の投入で、シェアの拡大が可能」(相川社長)と、自信を見せる東南アジアで、さらなる成長を遂げられるか。三菱自動車の今後を占う試金石となりそうだ。

「週刊東洋経済」2015年8月8-15日号<3日発売>「核心リポート04」を転載)

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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