「倒産の目利き」が読み解く"東芝問題"の真相 企業経営者が危険な一線を踏み越えるとき
もうひとつは経営者のメンツや企業の体面、社内の確執などです。経営者は前年より業績を上げないといけないとか、前年より▲▲%成長させる、などとステークホルダー(利害関係者)にコミット(約束)している。
中にはあまりに背伸びした目標を掲げて、格好をつけてしまう経営者もいるでしょう。約束したことを守れないと自分の立場が怪しくなるため、何とかして数字をよく見せたい。そうした動機もあります。東芝はこれまでのところ後者にあたりますが、こうした事態が起こるのは何も東芝に限ったことではありません。どの経営者、どの上場会社、どの中小企業だって起こりうるのです。
合理的に説明できない理由
――前任者より成績を上げたい、あるいは前年より成績を伸ばしたいという気持ちはわかります。しかし、スポーツでもずっとゲームに勝ち続けている選手やチームはありません。
さまざまな事情でダメな時もあります。そうしたことは自明なのに、なぜ意図的に業績をかさ上げしたり、事後的に修正したりすればいい、といった安易な考えに追い込まれてしまうのでしょうか。素直に「負け」を認めて、「今年はダメでした、すみません」と言えないのでしょうか。
正直なところ、合理的に説明できない部分があります。たとえば同族企業での確執や、近親憎悪などです。一族の間でトラブルが起こると修復できない一線を越えてしまう。本書で紹介している白元の例もそうですし、最近の大塚家具の内紛なども、当事者の主張する理屈はどうあれ、外部からは理解できない部分が多いです。
今回、東芝の件で指摘されている西田、佐々木、田中という3代続いた社長間の確執もそうした点から分析すると、どうしてあれだけの企業で、しかもトップが主導する形で不正会計を代々やり続けてしまったのかを読み解くことができるのではないでしょうか。
――企業統治(コーポレートガバナンス)がしっかりしているはずの上場会社でどうしてこんなことが起きるのでしょうか。
会社経営の暴走に歯止めをかける仕組みとして、昔ながらの「番頭」の機能の必要性がよく指摘されますが、そうした機能がなかったのではないでしょうか。経営者に耳の痛い話をできる人物やグループ、機関などをあらかじめ経営トップの近くに置いておくことは必要なことです。東芝は誰も自覚をもってトップに耳の痛い話をすることができなかったのだ、ということが推察できます。あとは経営者自身が自制できるかどうかがポイントです。
――東芝の問題は、短期的な業績を重視する最近の傾向が影響していると言えないでしょうか。
四半期決算になってから、企業が短期的な収益を追いかける傾向が強まり、中長期の経営目標や経営努力の優先順位は後回し、という雰囲気になっているのは確かです。ただ、「3日で120億円」という言葉に象徴されるように、短期間で無理して利益を積み増すようなことは、経営トップが現場を理解していればありえないし、「意図して指示したものではない」という主張にも説得力はありません。こうした面で経営者の資質が十分に足りていなかったといえます。
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