「倒産の目利き」が読み解く"東芝問題"の真相 企業経営者が危険な一線を踏み越えるとき
――経営トップの資質や、将来を見通す力が問われるという意味で、本書は「目利き力」という言葉を使っていますが、藤森さんがこの言葉に込めた思いはどんな意味合いでしょうか。
自分たちがやっていることが、3カ月後や1年後にどうなるか。それがわかるかどうかも「目利き力」だと思います。
自社の製品やサービスや世の中でどう評価されるのか。サービスを受ける側は3カ月後にどう変化してゆくのか。そこに勝算を判断できるかどうかがポイントです。もしそれができれば、当面の負けを認めることができる。つまり「今回発表した決算は残念ながら、不本意な内容だったが、来期以降は回復する」と言うことができるのです。企業が数字をごまかすのは、自社の未来を十分に見通すことができない焦りでもあります。
決算書の読めない社長や、5年先、10年先といった将来の夢の話しかできない社長がいます。決算書の数字が読める社長は、今後の3カ月、6カ月、1年を数字で説明できる能力を持っています。逆に半年後、1年後にどんな利益が出るかわからず、遠い先の話しかできない社長は、自社商品のことや、取引先の状況、外部環境がどう変化するかなどがわかっていない。足元の状況を説明できる能力があるかどうかが、すなわち「目利き力」につながり、金融機関もそこを見ているのです。
近代経営にこそ「番頭」機能が必要
――番頭機能の重要性を指摘されていますが、現代の企業では具体的には、どのようなイメージを持てばよいのでしょうか。
東芝の例もそうでしょうが、自他共に注意をしないと、経営者はどんどん謙虚さを失っていく傾向があります。経営は自信がないとやっていけない側面もありますが、謙虚さを失った社長が迷走することも起きてくるので、それをサポートするのが番頭の役割です。
副社長や専務、常務などは、番頭とは機能が違います。あらかじめ存在し、普段は意見しないものの、会社が何かおかしな方向に行きそうな時にだけ苦言を呈する、というのが番頭の機能です。一見、古くさいイメージがありますが、さまざまな不祥事や不正が起こっている中、近代経営における番頭機能に注目してもよいのではないかと思います。
――藤森さんは長く生き残る会社も多くご存じです。その条件とはどんなことだと思われますか。
老舗企業に共通する特徴は、環境に合わせたしなやかな変化だとおもいます。外部環境の変化に合わせて、企業自身もしなやかに変わっていく。
和菓子の虎屋にしても、変えるべきことは変え、また変えていない部分も多くあります。200年続いている酒造会社では、徹底したマーケティングによって毎年のように酒の味を変え続けています。100年、200年と経過すると、当然ながら外部環境は大きく変わり、社長の考えも変わっていきます。
そうした老舗は一般的な経営の常識に反して在庫を多く持つ傾向があるなど、経営データの面では必ずしも優等生ではありません。しかし、さまざまな災害や戦争、その他の変化に長年にわたって対応してきた企業としての「経験値」が高いのも事実です。つまり、蓄積した経験を現代の経営に上手に生かすのが、長く生き残る企業の条件です。今回の東芝の不正会計事件は、そうした目利きの不在を象徴するものだったと思います。
(撮影:尾形文繁)
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