ウィーク・タイズの特徴は、なんといっても参入・離脱が自由なことと、日ごろは疎遠な人との薄いつながりのため、価値観が多様なこと。よく小学校の同窓会などがイメージされたりするが、実は個人商店と消費者の関係こそピッタリではないかと思う。お互いに売る側、買う側としての一定の期待役割を持ちながらも、そこから一歩近づくコミュニケーションがとりやすいし、ハードルが低い。また、顧客同士の横のつながりもできやすい。
いわゆる「行きつけの店」だ。ケーキ店で妄想してみたい。「ちわ~」「あ、どうも~いらっしゃい、カナモリちゃん(ちゃんづけ)」「今日はいつものチョコレートケーキ?あれちょっと顔色悪いんじゃない(常連気分)」「残業続きでさ。徹夜で作った企画書、課長に目の前でゴミ箱に捨てられたし…。今日はなんか癒されるものが食べたいな。マスター、なんかいいのない?(マスターと呼べる)」「今年の洋ナシはいいよ~。タルトなんてどう(旬の美味しいものに出会える)」「じゃあ、それ。あ、ちょっと生クリームのっけてよ(わがままができる)」「これお土産に持って帰りなよ。洋ナシで作ったジャム。美味しいよ。仕事、がんばりなよ(美味しい恩恵にあずかれる)」。
スタンプカードレベルの顧客管理とリピート促進施策を行っている店は多い。そのレベルを飛躍的に上げるのだ。顧客に対する購入や来店に対するインセンティブを高め顧客情報を収集し、「ハレの日」を確実につかんでメールやDMで事前にオススメのアプローチを行う。顧客のちょっとした服装や顔色にも気を配り、顧客の好みに合わせた商品のオススメを行って、「わかってるなぁ~」という心理的満足感を与える。
ケーキ作りの講習会や「男子ケーキ部」などイベントを通して顧客同士の横のつながりをつくることもできるだろう。ツイッターやフェースブックを使ったコミュニティづくりも欠かせない。現に、下北沢や高円寺、三軒茶屋などの街には、いまだに、お店がウィーク・タイズのハブとなっているバー、古着屋、カフェなどの個店が数々存在する。いずれも、食べログなど口コミサイトでは評価すらされないような店ばかりだ。
顧客の個別識別は商売の基本である。だが、いままでそれが十分できていたかは疑問だ。明確な強力な競合が出現したときこそ、まずは基本に忠実になり徹底すべきだろう。商品力と価格だけで勝負しないためのカギとなる。
おまけ。さっきの妄想の続きを…。「うっす」「いらっしゃい。あれ、珍しい。飲んできたの」「いや~3カ月かけたプロジェクトがまとまりそうでさ。今日はその前祝い」「やったね~、さすがカナモリちゃん!」「マスター、今日は最高にハッピーなケーキにしてくれよ」「じゃあ、オペラはどうかな。10時間かけて作った自慢作だよ」。25平米のワンルームアパートに戻り、床に散らばるコンビニの袋をよけながら、ネクタイを緩め、コーヒーを淹れ、紙の箱を開く。大ぶりにカットされた美しいケーキの上にのっている金箔が、ふわっと揺れた。ふと、横を見ると、メッセージカードが添えてある。
「がんばったね!おつかれさま」
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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