人間は、ケルトナーが登場するよりも何千年も前から権力に魅了されてきた。だが、権力の研究がより体系的になったのは第2次世界大戦後だ。それは、世界で解き放たれたばかりの邪悪を、研究者たちが理解しようとしたからだ。
1960年代にはスタンレー・ミルグラムによる実験が行われた。その実験では、多くの普通の参加者が、権威のある人物に指示されると、致命的なレベルの電気ショックを他者に与える気を見せた。
ミルグラムの実験は、ハンナ・アーレントの「悪の陳腐さ」の概念と見事に合致する。この概念は、普通の人がホロコースト(ナチスによるユダヤ人大虐殺)の残虐行為の積極的な参加者になりえた理由を説明しようとするものだった。
1970年代には、フィリップ・ジンバルドーがスタンフォード監獄実験で波風を立てた。それについては、すでに論じたとおりだ。
「パワー接近/抑制理論」とは?
だが、権力がどのように私たちに影響を与えるかについての科学文献は、何十年にもわたって限られていた。これは1つには、参加者に対して研究者が行えることに、遅れ馳せながら倫理的な制限が課されたのが原因だ(ミルグラムの実験も、ジンバルドーの実験も、今日なら許されないだろう)。
そんななか、2003年にケルトナーはデボラ・グルーンフェルドとキャメロン・アンダーソンとともに新しい理論を開発し、それが一気に盛んな研究につながった。
「パワー接近/抑制理論」と呼ばれるこの理論は、ケルトナーと共同執筆者たちには悪いが、口からすらっと出てくる、記憶に残る名前とはおよそ言えない。
だが、その背後にある考え方は簡単に理解できる。要するに、権力は「接近」行動につながる。人は権力を持つと、行動を起こしたり、目標を追求したり、危険を冒したり、報酬を求めたり、自己宣伝をしたりする可能性が高まる。
権力のある人は、ギャンブラーのように人生に取り組む。プレイしなければ、勝つこともできない、というわけだ。
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