「岩田さん、一番好きなゲームって何ですか」 記者が振り返る任天堂・岩田社長の魅力

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インタビューをした2013年7月は、「コミットメント発言(営業利益1000億円を目指すことはコミットメントだと発言)」をめぐって揺れていた時期であり、こののんびりとしたやりとりはどこにも収録されることはなかった。だが、岩田さんの人となりに触れることができた言葉として、任天堂の担当を離れた後も心に残った。この人は本当に、社長である前に、ゲームを作るのが好きで、ゲームをするのが好きな人なのである。

最後、立ち去る際に、「好きなゲームねぇ。突然だったのでなかなか思いつかず、すみませんでした。次回、お会いするときまでに考えておきますね」と声を掛けてくれる気の使いよう。しかし、その約半年後に担当が変わったことから、残念ながら、その機会は2度と訪れなかった。

気遣いをする人だった

2013年9月には山内溥・前社長が逝去した。実質的に経営から退き、一切の口出しはしなかったと聞くが、岩田さんの心の拠り所であったことは想像に難くない。岩田さんは「任天堂らしさは時代とともに変わる」と言っていたが、いちばん「任天堂らしさ」にこだわったのも岩田さんだった。それだけに現在の低迷する業績をなんとかしたい、スマートフォン時代にも通用する面白いゲームを早く世に送り出し、みんなに楽しんで欲しい、という強力な責任感があったのだろう。

岩田さんは、記者会見の際にも気遣いをする人だった。大阪証券取引所での決算会見を終えた後、たいがいの社長はぶらさがりを避け、さっさと退散する。特に業績が悪い企業ほど、記者との接触を少なくしようとするのが通例だ。だが、岩田さんは時間が許すかぎり、記者と立ち話をしていた。事務局が「そろそろ出ないと新幹線に間に合いません!」と悲鳴を上げるまで立ち去ることはなかった。

インタビューを受けるときは、「せっかく会うのだから何か新しい話題を」と考えてくれていた。記者を特別扱いしていたわけではなく、根っからサービス精神が旺盛なのだ。

任天堂のホームページに「社長が訊く」という企画がある。会社のホームページ上のことなので、見映えのよいことしか書いてないだろうと思いがちだ。だが、岩田さん本人に会ってみれば、そこに載っていることは脚色なし、本当に岩田さんが素朴に疑問に感じて、感動して漏らした言葉が、かっこ悪いことも含めて、すべて網羅されているだろうことがわかる。いま読み返しても、まるで岩田さんがそこにいるような錯覚に囚われる。

仕事から離れた今、岩田さんは天国で、「大好きなゲーム」を心置きなく楽しんでいるのではないかと思う。いや、岩田さんのことだから、こうすればもっと面白くなると構想を練っているのかも知れない。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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