ゴルフこそ最もフェアなスポーツ

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漫画家/弘兼憲史

 僕は、あらゆる競技の中でゴルフが最もフェアなスポーツだと思っています。その一番の理由は、プレーヤーそれぞれの良心に基づいて「スコアを自己申告する」というルールにあります。やはりこれが他に類を見ない、紳士のスポーツと言われるゴルフのゴルフたるゆえんですね。たとえば、グリーンでパターを構えた時、ボールがほんの1ミリチョロっと動いただけで1打罰なんですよね。そんなのテレビ中継が入っているようなプロの試合だって、ハッキリ言えばカメラがとらえていないとバレない可能性も大いにあるわけです。

今も語り継がれている伝説として、前人未到の年間グランドスラムを達成しながら生涯アマチュアを貫いたボビー・ジョーンズ選手の有名な話がありますよね。1925年の全米オープン、彼は誰も見ていないラフの中で自分のボールがアドレスした際にわずかに動いたと申告。自ら1打罰を課して、結果その1打の為にウイリー・マクファーレンに優勝をさらわれてしまいました。その行為は優勝より価値があると称賛されましたが、「当然の事をしただけ」とサラリと言い放ったジョーンズ選手。さすが“球聖”です。

その対極にあるのがサッカーで、スローインやフリーキックの位置は極めていいかげん。審判もほとんど無視の状態。ボールの奪い合いの局面で、本当は手とか握ったり押さえてはいけないけどほとんど握ってるし、ユニフォームなんかも引っ張ってるんですよ。審判も確認してもそれぐらいじゃファウルにしない場合もありますよね。うまく審判の目をごまかして反則するのも技の一つという南米の考え方「マリーシア」は、ポルトガル語で「ずる賢い」という意味。しかし、これは駆け引きを行って試合を優位に運ぶという戦術の一つでもあり、もともとサッカー自体がそういうルール設定だと言っても過言ではないかもしれませんね。

さて、話をゴルフに戻します。数を自己申告するという設定上、一緒に回っている人がどうも1打足りないなあと思っても、本人が言う以上、他人は「間違ってるんじゃないか」とは言いづらいんですよね。本人がごまかしてる場合もあるかもしれないけど、本当に気づかない場合もある。普通のコンペなんかでは、言ってあげたほうがいいと思うのですが、それで人間関係が壊れるなんてことも無きにしも非ずですから、難しいですね。
 実は僕自身も完全に勘違いしていたことがありました。何の躊躇もなく“5”と申告したら、他のプレーヤーがけげんそうに「ん?」ってな顔をしたんですね。その顔が気になってずっと考えていたら「あ、俺あそこで1回チョロってる(汗)」って思い出したんです。それから3ホールくらい後に「スミマセン、思い出しました」って申告したんですが、3ホールも引っ張って「このまま気づかないフリをしようか」と一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしかったです。トホホ。

漫画家/弘兼憲史(ひろかね・けんし)
山口県出身。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に漫画家としてデビュー。現在、『島耕作』シリーズ(講談社)、『黄昏流星群』(小学館)を連載するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。
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