任天堂「岩田聡の死」を世界が深く悲しむ理由

常にファンの目線で語った稀有な経営者

ウェブメディアのVoxは岩田氏がコンファレンスで世界の聴衆に語ったこんな言葉を紹介している。「私たち開発者はあなた方と同じ考え方を持っています。我々が世界の異なる場所から来ているとしても、違う言葉をしゃべるとしても、一方がポテトチップを食べて一方がおにぎりを食べたとしても、違うゲームが好きだとしても、ここにいるすべてのみなさんはある一つのことでは全く同じなのです。それは、我々すべてゲーマーの心を持っているということです」。ファンの共感のダムの堰を切るような見事な語り口だ。

2009年4月、東洋経済の会議室で取材に応じる故・岩田社長(撮影:尾形文繁)

② 直接向き合う

これまでのトップは、メディアを通して、間接的にファンやユーザー、生活者などとコミュニケーションをとるのが一般的だった。普段は城壁に囲まれた会社という城の中で執務をし、限られた腹心に指示を伝え、たま~に(株主総会など)、庶民の前に現れて手をふる「お殿様」みたいなものだ。

しかし、ソーシャルメディアがこの習わしを根底から変えつつある。メディアを通さず、動画でトップのメッセージをステークホルダーに届ける動きも広がっているからだ。マイクロソフトの新しいCEOサチャ・ナデラ氏はメディアとのインタビューの代わりに、社内制作のビデオで就任後初のメッセージを世の中に伝えた。大手メディアは「忸怩たる思いを抱きながら」、そのビデオを引用して、記事を書かざるを得なかった。

こうしてトップが直接的にコミュニケーションをとるトレンドを先駆けていたのが岩田氏だった。ウェブ上で、「Iwata Asks」(日本語名では「社長が訊く」)という岩田社長が開発者をインタビューするという(開発者が、ではない)コンテンツを連載し、英語、スペイン語、フランス語に翻訳して公開した。そのウィットに富んだ、かしこまらない質問やツッコミぶり、そして社員である開発者と対等な視点でものを語り合っている姿が、ファンにとってはたまらないものだった、と多くの海外メディアがその取り組みを絶賛している。

③ 上から目線で語らない

岩田氏の海外メディア評では、その人格をほめたたえるものが非常に多かった。身近にいた人々の岩田氏に対するコメントが、岩田氏への尊敬と感謝であふれていたのも印象的だ。「彼はよく笑い、我々も笑わせてくれた。インタビュアーをリラックスさせるコツを知っていた。常に、面白い話、楽しい話を付け加えようとしてくれた。数えきれないほどの彼の素晴らしさ以上に印象深いのは、全く知らない人までを包み込む彼の暖かさ、懐の深さだ」(Time)。

「知性、クリエイティビティ、好奇心、ユーモア。ただ、我々のように近くで仕事をした人間にとって最も記憶に残るのは、彼の助言力(メンターシップ)、そして、友情だ。(中略)私は彼を上司だと感じたことはない。彼はまさに私を支えてくれる友人のようだった。彼のような人間を私は誰も知らない」(任天堂アメリカCOOレジーフィサメイ氏)といったコメントからも、社内の人間に対しても、ファンに対する姿勢と同じように、対等の目線で語っていたことがうかがえる。

道化をいとわない

岩田氏の遊び心といたずら心、すがすがしいまでにありのままの自分を見せる彼のスタイルがファンを魅了した」(Time)とあるように、岩田氏は自らをネタにしてしまうのをいとわない、究極の「道化師」でもあった。多くの動画にその芸達者ぶりが見て取れるが、ここまで思い切り、道化になり切れる人はなかなかいない。自らを笑いものにしてまで、「とことん、人を楽しませたい」と言う思いは、ゲームへの飽くなき情熱と表裏一体のものなのかもしれない。

⑤ 英語力にこだわらない

以前、安倍首相のアメリカ議会でのスピーチについて解説した記事でも触れたが、グローバルの場面でのコミュニケーションにとって、最も重要なのは英語力ではない。確かに、彼の英語は日本人の平均よりはずっといいが、それでも、決して流ちょうとは言えない。いくつかのメディアも彼の「英語力の問題」に言及していたが、そうしたハンデをものともせず、果敢にグローバルの舞台で、何十回と英語でのプレゼンに挑み、ファンやメディアと深い絆を作っていったことは高く評価された。

岩田氏は時代の一歩も二歩も先を行く、限りなく型破りなリーダーシップのカタチを示してくれた。後に続くリーダーは現れるのか。不世出の天才の空けた穴はとんでもなく大きい。

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