任天堂「岩田聡の死」を世界が深く悲しむ理由

常にファンの目線で語った稀有な経営者

一般的には海外メディアに掲載される日本発のニュースの多くが、通信社発の記事のコピペで終わるのだが、多数のテレビや有力紙、ネットメディアの記者が個人的な思い出や追悼の言葉を様々につづっているのも印象的だ。それらの記事を読むと、いかに岩田氏が海外の様々なメディアの記者たちと密にコミュニケーションを重ねていたか、彼らの心にどれだけのインパクトを残したのかが浮かび上がってくる。

「南アフリカの多くのリーダーたちが金儲けのことばかりを考えている。しかし、自分の功績が自らの人生に何を与えたかと考えた時、銀行口座にいくら貯まったかなどといったことは何ら意味のないことだ。あなたの愛することをやり、あなたのすることを愛しなさい。なぜなら、それが人々があなたについて記憶する姿だからだ。それを私はSatoru Iwataから学んだ」(南アのメディア)。

「彼は突拍子もないユーモアや様々な恰好に扮して、たくさんの(パロディーの)ネタを提供してくれ、世界の人々からも大いに敬愛された」(ニュージーランドのメディア)などなど、まさに世界の津々浦々で彼を悼む声がこだましている。

世界で最も愛された経営者だった

盛田昭夫、松下幸之助、本田宗一郎、安藤百福など、世界から尊敬された経営者は日本にも多くいた。しかし、これほど「世界に愛された経営者」はいただろうか。彼を「世界で最も愛された経営者」の一人にしたのは、トップとして、ゲーム開発者としての天才的な資質はもちろん、ゲームに対する深い愛情と献身、優れた人格、そして何よりそのずば抜けたコミュニケーション力だった、といえるだろう。

彼のコミュニケーションがなぜこれほどに多くのファンを生み、その心をとらえ続けたのか。いくつかの視点からスポットを当て、これからの日本のグローバルリーダーに必要なコミュニケーションの資質とは何かを考えてみたい。

2015年3月、DeNAとの提携記者会見における故・岩田社長(撮影:今井康一)

① 情熱と共感

コミュニケーションに最も重要な要素。それは伝えようとする情熱と、共感を呼び起こす力である。日本の経営者にはこの二つが圧倒的に欠けている。そもそも、伝えようという熱い情熱を持った経営者が少ない。冷静であることに価値が置かれているからか、熱く語ることを「かっこ悪い」とか「やりすぎだ」と揶揄する。筆者は、トヨタの豊田章男さんのプレゼンが大好きなのだが、これを経営者に見せると、多くが「日本人には不自然だ」「自分にはできない」と言う。確かに、ジェスチャーなどはぎこちないし、言葉と呼吸が合っていないのでこなれている、とはいいがたいが、何より、「この思いを伝えたい」という息遣い、熱い思いを感じるのだ。

豊田氏と岩田氏の共通点。それは、二人とも、何より自分の作るものに誇りを持ち、無限の愛情を持っていること、そして、常にファンやユーザーの視点に立って語ることだ。豊田氏は「エンジンの音、ガソリンの匂いが何より好きだ」と語り、自らを「自動車会社に勤めるドライバーモリゾウ」と称している。

岩田氏も、「その親しみやすさで知られていた」(The New Yorker)。「私の名刺には社長と書いてありますが、頭の中はゲーム開発者、心はゲーマーです」と言う彼の言葉は、まさに、常にファンの目線で語り、共感を生むコミュニケーションの達人であったことを示している。

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