「紳助騒動」でも明らかになった吉本興業の非上場化メリット、“行儀悪い”非上場化に株主からの訴訟も
TOBを通じ、SPCは88%の議決権を獲得。臨時株主総会でTOB非応募株主追い出し決議に必要な議決権(=特別決議に必要な3分の2以上)を確保できたので、追い出しはスムーズに進行。10年2月24日、上場廃止になった。
ファンドには吉本への番組製作依存度が高い在京キー局各局や、広告代理店、ライセンスで密接な関係を持つゲーム会社など、吉本なかりせば事業が成り立たない会社のほか、取引銀行や証券会社、それに創業家など総勢32社が出資した。
一連のキャッシュアウトを経て、1万6000人いた株主は、わずか32社の吉本応援団に入れ替わった。この顔ぶれならば、何があっても株主代表訴訟を起こされることはない。
60年余りに及ぶ上場期間中、吉本は何度も所属タレントと暴力団の関係をメディアに報道される事態を経験している。09年1月には、吉本の元最高顧問・中田カウス氏の襲撃事件という、きな臭い事件も起きている。
それだけに、暴力団排除に向けた社会全体の意気込みが、加速度的に増していく流れもまた、敏感に感じ取っていたとしても不思議はない。
07年6月の反社会的勢力排除にむけた政府による「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の公表は、その後の反社会的勢力排除の流れを加速させた。08年2月には東京証券取引所が、上場会社に対し、反社会的勢力排除に向けた体制整備開示を義務づけ、同年3月には金融庁が主要行向けの総合的な監督指針に金融取引からの反社会的勢力排除を盛り込み、同年11月には全国銀行協会が銀行取引約定書に盛り込む暴力団排除条項を公表。吉本が上場廃止を宣言するわずか3カ月前の09年6月には改正暴力団対策法が制定(施行は10年4月)された。
この時期は、島田氏が殴打した女性マネジャーから起こされていた損害賠償請求訴訟が大詰めを迎えていたときでもある。
「メディア関係者との資本関係強化により、目新しい仕掛けをスピーディに展開するため」、というのが非上場化の公式な目的ではあったが、上場を維持することによるコンプライアンス(法令順守)上のリスクもまた、意識していなかったはずはない。