「紳助騒動」でも明らかになった吉本興業の非上場化メリット、“行儀悪い”非上場化に株主からの訴訟も
会社法が追い出される株主に認めている権利は、「追い出し価格を法廷で争う権利」だけだ。
だが、その唯一の権利も、個人投資家にとっては、「法廷で争う」ことがとてつもなく高いハードルである以上、機能しているとは言いがたい状況にある。
このため、実際に争う株主はごく少数にとどまるが、争った株主が一定の成果を上げ、キャッシュアウト実務に多大な影響を与えていることもまた事実だ。
株主の抵抗がM&A実務にくさびを打ち込む?
あまり知られていないが、吉本興業でも、現在19人の株主が、法廷闘争を展開している。ただしこちらは「価格で争う」のではなく、損害賠償請求である。
現在多用されている会社法のキャッシュアウト条項は、本来、法的手続きを使わず、任意で債務整理を行う際の100%減資を円滑に実施する目的で創設されたものだ。条文が利用目的を限定しない文言になっているので、単なる株主追い出しに盛んに転用されてきたが、本来の法の趣旨とは異なる使われ方であることは事実だ。
19人の株主は、この「転用」が不当なものだ、というロジックで訴訟活動を展開。株主側は現在、TOB価格算定の根拠として、吉本側が拠り所とした、第三者の株式価値算定評価書の提出を求めている。
買収者は、ファンドなど自力で計算してしまう買収者を除けば、TOB価格算定に当たって証券会社や会計系のコンサル会社などから評価書を取る。
さらに、買収提案を受けた取締役会も、買収者とは別に評価書を取るし、場合によっては取締役会が任命・組成する第三者委員会も、別に評価書を取る場合がある。
一声1通5000万円ともいわれる高い評価書を、こうして何通も取る一方で、開示は結論だけ。計算プロセスが書かれている中身は開示しない。