航空管制官が「原則を外れた指示」を出す時の条件 現場でもっとも評価される管制官の能力
その際に注意すべきは、それがリーズナブルな指示であることに気づいているのは自分だけで、隣の空域を管轄する管制官は気づいていない場合がある、ということです。また、ショートカットした機が自分の管轄空域内ではほかの飛行機に干渉することはないが、隣の管制官の空域内ではほかの飛行機に近づきすぎてしまう――ということが起きる可能性もあります。
そのため、原則とは違うことをしようと考えたときは、影響を与える可能性がある空域を担当する管制官に「この便をショートカットさせてもいいだろうか」と先に確認しておきます。そのような調整は、隣にいる管制官だけでなく、少し遠くの席や別の場所にいる管制官と行なう場合もあります。調整する内容によっては、異なる管制施設をまたいで、直通電話でやりとりします。
原則と違うけれどメリットがある、安全性と効率を高めることができると思ったら、それは行なったほうがよいでしょう。ただし、自己の管轄に収まらない場合は、「内部調整が必須」という条件の下においてです。
1人で空港・空域すべての飛行機を動かせるのなら、調整はいりません。しかし、実際は複数の人間がかかわっています。原則と違うことをやるときほど、周囲の合意形成が大切です。ここでもコミュニケーションのテクニックが活きてきます。
ワンマンプレーは好まれない
管制官には原則を堅持する人と、状況に応じて柔軟な方法を選ぶ人がいます。一長一短があり、正解はありませんが、後者は「イケイケ管制官」などと揶揄されるのを聞いたことがあります。おそらく自分も、現役時代は周囲にそう思われていたのではないかと思います。
原則を堅持するメリットは、管制官の負担が少ないということです。前例主義にも近いかもしれません。今まで通りのやり方を貫くことで、それを守ることに集中できます。
後者のメリットは、関係する管制官のあいだでうまく合意がとれれば、安全性、効率性が向上する、ということです。
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