「ハドソン川の奇跡」
2009年1月15日午後3時25分、USエアウェイズ1549便に、ニューヨーク・ラガーディア空港滑走路4からの離陸許可が下りた。
この日は天候に恵まれ、コックピットでは機長のチェズリー・サレンバーガーと副操縦士のジェフリー・スカイルズがチェックリストの点検作業を行っていた。2人ともこの旅を楽しみにしていたが、まさかこのフライトがのちに「奇跡」とまで呼ばれることになろうとは、思いもしなかった。
離陸後まだ2分も経たない頃、カナダガンの群れが機体右方向に突如現れた。あまりに急な接近で、避けるのは不可能だった。2羽のガンが右エンジンに飛び込み、少なくとも1羽が左エンジンに巻き込まれた。
機体が何度かドスンと大きく揺れたあと、あたりは死んだような静けさに包まれた。エンジンが止まったのだ。2人の乗組員は鼓動が速まるのを感じた。認識力が低下していく。危機的状況における典型的な反応だ。なにしろニューヨークの3000フィート(約910メートル)上空で、70トンのエアバスA320の両エンジンが停止したのである。
2人のパイロットは、わずかな時間で一連の決断を下さなければならなかった。管制は、ラガーディア空港に引き返すか、数キロメートル先のニュージャージー州テターボロ空港への着陸をアドバイスした。しかし機長はどちらも断った。機体の落下スピードが速く、そこまで持つとは考えられなかったからだ。
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