午後3時29分、サレンバーガー機長は管制との交信で、のちに新聞の見出しを賑わすことになる一言をつぶやいた。「ハドソン川に着水だ」
サレンバーガー機長は、最終的に70トンのジェット機をハドソン川に無事に着水させた。すばらしい判断と操縦テクニックである。
機長は着水後も入念だった。機体後方で浸水が始まる中、全乗客が脱出したかどうかを確認するため、客室内を2往復して見回った。その後外に出ると、水面からほんの数センチ覗く主翼の上に乗客たちが退避していた。死者は1人も出なかった。
機長の冷静な対応はアメリカ中の人々を魅了した。当時57歳だった彼は、就任直前のオバマ大統領から直接電話をもらい、勇敢な行動を称えられた。事故の5日後には、就任式にも招待されている。
『タイム』誌が発表した2009年度の「世界で最も影響力のある100人」では、「英雄と象徴」カテゴリーの2位にランクインした。
人々にとって、機長の行動は崇高な個人主義の証だった。極限状態の中、1人の男の冷静な対応が100人を超える乗客の命を救ったのである。
「個人」ではなく「システム」を見よ
しかし航空専門家の意見は少し違っていた。彼らは大局を見ていた。機長個人の貢績ばかりでなく、システム全体を視野に入れていた。中にはクルー・リソース・マネジメント(CRM訓練)に言及する者もいた。
機長と副操縦士との連携プレーは見事なまでにスムーズだった。鳥との衝突の直後、機長はすかさず機体をコントロールし、副操縦士は緊急マニュアルのチェックに努めた。
着水のそのときまで、2人の間では潤滑なコミュニケーションがとられた。機体が落下する中、副操縦士は機長が正確に状況認識できるよう、スピードや高度など必要な情報をできる限り伝えた。
着水のほんの数秒前にも会話が交わされている。「ほかに何かいいアイデアはあるか?」と聞く機長に、「正直言って、ありません」と副操縦士は答えた。
航空専門家の中には、機体の傾きを検知するセンサーが装備されていたことを挙げる者もいる。また、チェックリストや人間工学的デザインを評価する声もある。どちらも緊張状態で不要なミスを犯さないために配慮されたものだ。
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