亡き娘の部屋に父が見つけた、悲しみ絶えぬ詩歌 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・葵⑧

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(写真:terkey/PIXTA)
輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。
NHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。
この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 2 』から第9帖「葵(あおい)」を全10回でお送りする。
22歳になった光源氏。10年連れ添いながらなかなか打ち解けることのなかった正妻・葵の上の懐妊をきっかけに、彼女への愛情を深め始める。一方、源氏と疎遠になりつつある愛人・六条御息所は、自身の尊厳を深く傷つけられ……。
「葵」を最初から読む:光源氏の浮気心に翻弄される女、それぞれの転機
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悲しみがまたぶり返し

光君は、こうして引きこもったまま日を過ごしているわけにはいかないと思い、桐壺院(きりつぼいん)の元へ参上することにした。車を引き出し、先払いの者が集まりはじめると、悲しむ時を知っているかのように時雨がさっと降りはじめ、風が木の葉を散らして吹き荒れる。女房たちはいっそう不安になって、少しは紛れることもあった悲しみがまたぶり返し、みな涙でその袖を濡らすのであった。今夜はそのまま二条院に泊まるとのことなので、お付きの者たちもそちらで待とうと、みなそれぞれに出かけていく。今日を限りに光君が来ないなどということはないだろうけれど、みな一様に悲しみに暮れる。左大臣も母宮も、今日、光君が出ていくことに、また深い喪失感を味わうのだった。母宮に宛てて光君は文を送る。

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